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[コメント] 瞳をとじて(2023/スペイン)

ビクトル・エリセの遺作(予定)。
ペペロンチーノ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







なにせ10年に1本しか撮ってくれない監督ですからね。ビクトル・エリセは現在83歳。10年後は93歳。おそらく本作が遺作になっちゃうでしょうね。

それもさることながら、長編は『マルメロの陽光』以来なので「31年ぶり新作」がウリになっていますが、あれはドキュメンタリーだからね。他は短編だし。だから「長編ドラマ」としたら、実は41年ぶりなんですよ。そして本作は事実上、たった2作の長編ドラマ『ミツバチのささやき』と『エル・スール』の「受け」、ある意味「自己総集編」に思われます。まさか50年後の本人に「ソイ・アナ」言わせるとは思いませんでしたけど。

エル・スール』は父が失踪する話で、本作も(アナ視点で見れば)その設定を踏襲しているのです。そして、「移動映画上映」から始まった『ミツバチのささやき』を受けて、本作も映画鑑賞会で終えるのです。「この映画館は祖父が作った」「祖父は昔、移動映画館をやっていた」とか言って、『ミツバチのささやき』との繋がりを思わせながら。そういった意味では、エリセの「映画愛」の映画でもあるんですよね。

さらに言うと、劇中の映画、「別れのまなざし」でしたっけ?たしかこの映画の中の設定が1941年だったと思うんです。『ミツバチのささやき』の設定がちょうどそのくらいで、スペイン内戦直後のフランコ独裁政権が始まった辺りがキーになっている。

ただ、この劇中劇、なかなか珍作の匂いがしますけど、もしかすると何か深い意味があるのかもしれません。「別れのまなざし」でしたっけ?このタイトル自体が、83歳エリセの「お別れ宣言」のようにも思えます。実際、この映画のメインストーリーも「長いお別れ」的でもありますし。

「お別れ宣言」も含め、たぶん、エリセ自身の物語でもあるんです。その未完の劇中映画は監督の2作目だったと語られますが、実際エリセの2作目『エル・スール』は、後半部分は実現せずに未完だったそうですし。そういった意味では、本作は、その決着だったようにも思えます。まあ、この海に面した高齢者施設が南部地方(エル・スール)かどうかは知りませんけど。そしてエリセは、主人公の日常描写を通して「今は映画を撮らずに本を読んだり釣りしたりして暮らしている」という近況報告をしているのかもしれません。

ただまあ、劇中のジョーク「ドライヤー亡きあと『奇跡』は起きない」という言葉通り、この映画に奇跡は起きていないように思うんです。少なくとも、エリスファンの私の瞳には。その新作を10年待ち続けましたけどね、やっぱり80歳代の感性は信用できないんだ。 まあ、元々「枯れた」作風だからさほど違和感はないんだけど、物語を紡ぐ「粘り」がなくなる気がするんですよ、年をとると。シーンを繋ぐ「粘り」がなくなって、フェイドアウトで終えてシーンの羅列になっちゃうんだ。以前からその癖はあったんだけど、今回はだいぶ酷い。

長年お付き合いして、待ち焦がれた人が「長いお別れ」を持ち出してきたことに、個人的にはグッと来たんだけど、一見さんにはお勧めできない映画。

(2024.02.11 ユナイテッド・シネマとしまえんにて鑑賞)

(評価:★4)

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