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[コメント] ぼくが生きてる、ふたつの世界(2024/日)

まず一番に書きたいのは極めて美しい色遣いの映画だということだ。特に主人公−大(ダイ)−吉沢亮の実家の屋内シーンは色が氾濫しており、画面の触感の柔らかさも加わって実に美しい。この撮影、ルックの統一は良い仕事だと思う。
ゑぎ

 他に撮影でいうと、本作もほゞ全編手持ち、あるいはステディカムなどでの移動ショットだと思った。もちろん私も時に被写体にばかり没入してしまってカメラワークやカットの切れ目を認識できないことがあり、本作はそれが多い作品だったということも何かを表しているだろう。それに、目が潤んで仕方がなかったということも告白しておこう。

 というワケで、見ている最中も、完全な固定ショットって今まであったか?と思い返していたのだが、少なくも、終盤の駅のホームでの回想・フラッシュバックには、固定と思しきショットがあったと思う。こゝは全編のハイライトであり、最も心揺さぶられた部分でもあるが、例えば、この回想中の、電車内での吉沢とその母−忍足亜希子のツーショットの切り返しなんかは、ほとんどフィクスに見えた。ハンディカメラ主体の演出でも、最もポイントになる場面では、あえて安定した画面を持ってくるという選択だと思った。本作はこれが見事に奏功した例と云えるのではないだろうか。

 さらにこのフラッシュバックについて書く。これは(私基準で)書き過ぎるとネタバレになると云うべき事柄なのだが、フラッシュバックの中で、本作全体を支える役割が、完全に吉沢亮から忍足亜希子に転換する演出がある、ということだ。何よりも彼女の笑顔の連打が素晴らしい。これにより、私には、忍足は助演女優というよりも主演女優であると感じられる。最近見た日本映画の中でも、最も胸のすく演出だと思う。また、これに続く『恋恋風塵』の開巻みたいなトンネルの見せ方も、時空のすり替え演出として感心させられた。小学生時代の大(ダイ)から吉沢亮へのリレーキャストをワンカットで見せる時空の超越にも驚いたが、ラストのトンネルのショットは、吉沢の成長によるステージの変化を表して、極めて明晰な見せ方だ。美しい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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