[コメント] ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ(2024/米)
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バート・バカラックの楽曲は2回聴ける。冒頭のアニメーション部分と、リ―のジョーカーへの告白の場面だ。アーサーではない、伝説となった悪魔に愛を打ち明けるリ―の言葉として、ハル・デヴィッドのイカれた甘すぎる歌詞はなんて生き生きとしていたことだろうか!すでに鬼籍の人となったバカラックを振り返る人もわずかだろう。死にゆく彼の名曲に最後の花道を設けてくれた、トッド・フィリップスには感謝しかない。
そうです。この世にもう紛い物でないミュージカルの居場所なんてないんですよ。正義を標榜し悪の狂人を懲らしめるバットマンが、とうとうこのフィリップス作品に登場することもなかったように。ジョーカーは悪魔の仮面を被り続けられずにリ―を失望させ、そして凡俗のファンにとどめを刺されるのです。…現実世界は、もう悪のロマンも非現実のロマンスも死に絶えた健康な世界なのだ…監督のメッセージはそんな感じでした。カタルシスなど必要ない現実は、ただの過去の遺物であるジョーカーを、完璧な過去の遺物として忘れよ、と宣告してしまったのです。
思えば。レディー・ガガの歌声とともによみがえってゆくジョーカーの姿は、浮世離れして魅力的だった。イジワルな監督だ。でも、正しかった。楳図かずおの漫画「アゲイン」の終幕で燃え尽き、パワフルな怪少年からただの老人に戻った元太郎老人は、続編「まことちゃん」では哀れに逃げ惑うモブに成り下がった。フィリップスも愛着あるジョーカーを犬死にする凡人にランクダウンさせた。辛いが賢明だ。いまは21世紀なのだから。
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