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[コメント] ANORA アノーラ(2024/米)

やっぱり米国アカデミー賞って酔狂なイベントだ。
ゑぎ

 昨年度はヒドい説明過多演出の作品(理解を促すためのモノクロ/カラーの場面分けと、フラッシュバック的な人物紹介ショットの頻発が特徴)だったけれど、今回はR18+作品だ(日本のレイティング。米国ではR指定。米国で成人映画が作品賞受賞というのは、『真夜中のカーボーイ』だけか。当時、Xレイトだったそうだが、受賞後は解除)。本作も、今からでもR15+に変更して、映画ファンの高校生は見ることができるようにしてあげればいいと思う。高校生なら見てもいい、いやメッチャ面白く見ることのできる作品だと思うし(反論される方も多いと思うが)、将来の映画界のためだ(倫理規定は将来の映画界のためにあるのではないのでしょうけど)。

 実は、奇しくも発表の同日(直前)に見た。なので、見終わってほどなくして、受賞のニュースを聞き、吃驚してしまった。ショーン・ベイカーの受賞に関しても、女優賞のマイキー・マディソンもだ。映画芸術科学アカデミー会員って、こういのが好きだとは!勿論、私もとても面白く見たのだが、これなら、私はベイカーの前作『レッド・ロケット』の方が勝っていると感じたのだ。私の感覚だと、少なくも、前作の方がシネスコの使い方(主に被写体の配置と構図)は、洗練されていると感じたのです。

 ただし、前作の特徴だった頓狂なズーム・ショットがまた本作でも見せられるんだろうと予想していたのだが(怖いもの見たさみたいな期待でもあったが)、これに関しては、ほゞ無いと云ってよく、この点では、撮影(及び編集)の洗練を感じた。イヴァン−マーク・エイデルシュテインとアニー−マイキー・マディソンの後背位の交接シーン等でズームの利用は認められるが、前作のそれよりは、ずっと常識的なズーム・ショットだ。

 あと、本作が真冬のNYブルックリン(及び一部ラスベガス)を舞台としている、という点は実に良い情景を作り出していて、これにグッと来る効果は大きいだろう。地下鉄の高架下の街。風が吹きすさぶコニー・アイランド。イヴァンの邸宅の窓から見える雪。ラストシーンにおける、車の窓外に降りしきる雪の造型。劇中の時代背景とは異なるが、これも見事な1970年代ルックの再現じゃないか。

 また、本作は中盤で明確なギアシフトのある作劇で、イヴァンのお目付け役のトロス−カレン・カラグリアンとその手下のガルニク−ヴァチェ・トヴマシアン及びチンピラのイゴール−ユーリー・ボリソフの3人が登場してからが、メインプロットとなり、彼らにアニーを加えた4人でのドタバタ劇が実に面白い。その面白さの多くは、編集に拠っていると思う。例えば(一例に過ぎないが)、唐突に赤いスカーフで猿ぐつわをされたアニーのアップが繋がれるだとか、アニーが「レイプ!」と叫び続ける口元のカット繋ぎだとか。

 そして演者について、ぜひ書いておきたいのは、ドタバタ3人組の中のチンピラ−イゴールを演じるユーリー・ボリソフについてだ。この人が出てきた瞬間から、何かで過去に見たことがあると感じたのだが、『コンパートメントNo.6』のあの可愛い(?)リョーハをやった人でした!本作においても、このイゴールに観客の目が行くよう撮影も編集も実に周到に作られており、この造型こそが、本作の最大の美点と云うべきだと私は思う。彼がオスカーノミニーということも見終わってから気づいたのだが、こゝから彼の今後の活躍が見られる(だろう)ことを思うと、楽しみで仕方がない。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)jollyjoker ぽんしゅう[*]

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