[コメント] 勝手にしやがれ!!英雄計画(1996/日)
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シリーズ初めの二作『強奪計画』『脱出計画』がもっぱらフレーム内のあちらこちらに被写体を動かすことでシーンのリズムを刻んでいたのに対し、第三作『黄金計画』ではカメラの移動によってダイナミックに画面を展開する演出が顕著になる。それらの融合と呼ぶのが適当であるかはさておくが、この最終作『英雄計画』ではデモ行進のシーンが冷たいアクションの興奮を撒き散らす驚愕の長廻しとして撮り切られる。多数の人物が時間的な幅を持ってフレーム内外へ出入りする、そのコレオグラフィ的とでも形容すべきカメラおよび被写体の動作設計の達成度は、黒沢自身の『よろこびの渦巻』『復讐 消えない傷痕』『蜘蛛の瞳』におけるロングテイク・シーンを軽々と凌駕し、それこそテオ・アンゲロプロスにも優るとも劣らない(もっとも「長廻し」と一口に云っても、この『英雄計画』と引き延ばされた時間の虚しさを強調する『復讐 消えない傷痕』『蜘蛛の瞳』では目指されているものがそもそも異なってはいるのですが)。
そして、これは確かに「終末の映画」として『カリスマ』や『回路』に接続する作品だが、それらのように多くホラー性を求められてはおらず、また能天気な物語を繰り返してきたシリーズの一篇としてのこの映画は、それゆえ巧まざる寂寥感において際立っている。すなわち哀川翔・前田耕陽が退場後のラストシーン、洞口依子のワンショットである。哀川と前田の死をほのめかす演出以上に、彼女の表情が、そこに吹き込む風が、この楽園のシリーズに終止符を打つ。
さて、シリーズ全六作を通じてのレギュラー・キャストとは云うまでもなく哀川翔・前田耕陽・洞口依子・大杉漣の四名ですが、ほんの少し注意深く見ていた方なら気づいたでしょう、諏訪太朗も毎回異なった役で全作に出演している皆勤俳優なのです。また、三上剛史も五作品に出演しています(私が見落としているのでなければ、第一作『強奪計画』には登場していないはずです。最も印象深いのはやはり『黄金計画』で諏訪演じる「西」とコンビを組む「猫島」役でしょう)。
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