[コメント] フロントライン(2025/日)
全国民が等しく経験し、各人各様が忸怩たる複雑な思いをいまだ持っている「新型コロナ禍」を大衆娯楽映画として描く難しさ。無邪気な定型的ヒロイズムや、一方的な告発でお茶を濁すと反発を招きかねない題材をエンタメとして扱いながら節度を保った真摯な映画。
医療倫理(使命)と医療制度(現実)の齟齬。上意(理想)と実践(現実)の軋轢に揺れる中間管理。大衆エゴイズムという見えざる最大の敵。惨劇のうわべを興味本位に消費するメディア。誰もが知る2020年の「ダイアモンド・プリンセス号」をめぐるいきさつが多視点的に描かれる。
ところが、どのテーマも(良くも悪くも)カタルシスのない中途半端な扱いに見えてしまう。しかし一歩さがって、この「ダイアモンド・プリンセス号」の一件以降に私たちが被った様々な“悲劇”を冷静に思い返してみれば、このカタルシスの欠如は決して日和見などではなく、あの出来事をエンタメのための素材として安易に「利用」などできないという映画製作者たちの矜持を感じた。個々人の“思い”に安易に踏み込んではならないという作者たちの真摯な節度だと思う。
小栗旬、松坂桃李、池松壮亮、、窪塚洋介、森七菜という人気役者を顔見世的に起用しながら、形式的には小栗と窪塚の定型バディものとしてまとめることで(引き算の)エンタメ作品のクオリティを担保させたのは正解。
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