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[コメント] 華岡青洲の妻(1967/日)

競争者としての父親から母親(高峰秀子)を簒奪したエディプス(市川雷蔵)が、次にその母親による胎内再取り込み=去勢の危機を、伴侶(若尾文子」)との連携によって逃れ、麻酔手術の成功を通じて壮年の男子となる、という物語構造が実に露わであるが‥‥‥、
ジェリー

エディプス神話オリジナルと異なり、視力を喪失するのがエディプス自身ではなく、その妻である、というアイロニカルな結末が、高度経済成長期日本の自身に対する無謬幻想の無意識反映のようにも捉えられ、その青臭さが鼻につく。坂田三吉と女房小春の関係を典型とする女性犠牲の上に立つ男性の無傷の成功ストーリーが、今後も日本に生き続けてしまう限り、日本は相も変らぬ日本であり続けるだろうというのが鑑賞直後の正直な感想だった。

しかし、それでもこの映画は、こうした物語構造の抽出で満足していられる程度の細部だけで構成されているわけではない。何よりも犠牲を犠牲として生きた女達の真摯で前向きな(前のめりな、といったほうがより正確かもしれないが)力が、男たちを色褪せさせるくらいに物語推進力として大きな比重をもち、その物語推進力の内実には、ストーリーの生真面目さとは裏腹な戯画に近いユーモラスなたくましさを蔵しているところが作品として素晴らしい点で、まさに溝口健二の直系弟子としての増村保造らしい仕事である。

特に高峰秀子の演技の説得力の高さには眼を見張る。脚本をしっかりと呑み込んでいなければ、あの男根去勢的な支配力のイメージを広がらせることは出来ないだろう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)YO--CHAN

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