[コメント] エヴァの匂い(1962/英=仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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結果、映画に、宿命の厳格さも蠱惑的な魅力も生じないのが致命的。
冒頭で、「男女は素裸だったが、それを恥じてはいなかった」と聖書の一説が引用され、タイトルは「EVA」、つまりアダムを誘惑して罪に引き入れたエヴァの名(「イヴ EVE」の方が一般的だけど)。フランチェスカが新婚夫の浮気現場に遭遇して嘆きの表情を見せるカットでは、彼女の顔の隣に、マザッチョ筆の“楽園追放”と思しき絵が掲げられている(これがあからさますぎて失笑させられるのだが)。そしてラストでは、エデンの東で生命の樹を守った智天使への言及。ジャズでお洒落っぽく仕上げている裏に、そうしたキリスト教的な要素を滑り込ませているわけだ。要は、映画の舞台であるベニスは楽園の暗喩、だが純粋かつ原始的な楽園そのものではなく、現代的に爛れた楽園ということなのだろう。
光と闇、衣装の色などで、黒と白の対比を意識させる画面構成は見事であるし、特に、エヴァ登場時の、夜の闇を打つ雨粒の光など、殆ど宇宙的なものさえ漂わせる。再度の裏切りを目の当たりにしたフランチェスカが走り去るのを追うティヴィアン、そのまっ白な荒野をエヴァが眺めるのを背後から捉えたカットなども、脳裏に焼きつく。画だけを見れば、素晴らしいと思える箇所が幾つもあるが、主人公二人の人間的なしょうもなさは拭い難く、物語にも内容が無い。要は、どうでもいい男女の諍いを、現代的なセンス(?ジャズでそれを演出しているらしいのが却って寒い)で描くのか、聖書の引用による形而上的なテーマ性で描くのか判然としない、半端な姿勢で撮ってしまったという失策感が漂う作品。
ちょうど同じ年の『太陽はひとりぼっち』が、現代性や俗っぽさと、形而上的な終末観とを完璧に同居させ得ていたのと比べれば、この映画の不手際もより際立つというものだ。
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