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[コメント] 人間の條件 第5部死の脱出・第6部曠野の彷徨(1961/日)

確かにこの作品は、どっしりした重厚さを持っているが、観た後でかなり気持ちがよどみます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 なんというか、信念を持った人間が生きるのはいかに難しいことかということを「これでもか!」とばかりに徹底的に細かく描き、観ていて一切の快感を得ることが無いと言う、ある意味とても貴重な作品でもある。同じ五味作品である『戦争と人間』と比べても、あくまで徹底して一兵士の目線でのみ話が展開するため、大局が分からないと言う難点もあり。

 そして最終作である本作は、前にもまして悲惨の極地、主人公の梶は、それこそ一切の希望をはぎとられていくことになる。

 そもそも梶は共産党員というよりは、ヒューマニストであり、最も人間性を大切にしてくれるのが共産主義だと思っていた。どこから見ても甘すぎる彼の主張は、だから軍の中ではアカ呼ばわりされることとなるのだが、その実態としては、戦いを放棄することを理想とすることだったため、やはり共産主義とはほど遠いものだった。ソ連の参戦によって、その実態を知るに及び、その現実を突き付けられ、主義的にはどん底。小さき者を守ろうとする努力も、味方であるはずの軍によって見事に打ち砕かれる。

 彼に残された唯一のものはやさしい妻と再び出会うと言うことだけに収斂していくことになる。他のすべての希望を失った彼に残された唯一のものに、そして彼は決して出会うことなく話は終わるのだが、最後に彼が聞いた妻の声の幻は…

 それはあたかも彼を嘲笑するかのようなけたたましい笑い声だった。ラストの悲惨さは、ひたすらさまよう彼の姿よりも、その笑い声の方にあったような気がする。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)IN4MATION[*] けにろん[*]

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