[コメント] モンパルナスの灯(1958/仏)
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イタリア出身の画家モジリアニを題材に、早過ぎた天才を襲う不遇の人生を冷徹に描いた作品。
この作品において注目すべきはジェラール・フィリップを見舞いにきたリリー・パルマーの無言や、結婚生活への決意を誓った後のジェラール・フィリップとアヌーク・エーメの海辺での無言(長い!)や、ジェラール・フィリップが深夜に帰宅した時の二人の無言、さらに何といってもモジリアニの画を手に取るリノ・ヴァンチュラの無言(なお、ここではリノ・ヴァンチュラの動きの速さも非常に重要だ)ではなかろうか。これらのシーンにおける沈黙は雄弁であって、何ら付け足すべき台詞を要しない。それぞれのシーンの中に漂う様々な残響に耳を澄ませるばかりだ。
リノ・ヴァンチュラといえば、夜霧立ち込める中ジェラール・フィリップの後を付けるリノ・ヴァンチュラは死の商人どころではなくもはや死神と言っても良い。背景も何もなくただ深い暗闇が二人を包んでおり、観ているものに強烈な死の印象を与えている。
ラストカット直前のアヌーク・エーメへのズームにも鳥肌が立つ。ジャック・ベッケルの監督作品においてクローズアップショットは愛を語るために用いられることが多い(例えば『肉体の冠』でのシモーヌ・シニョレとセルジュ・レジアニ)ことを思えば、何とも皮肉な表現といえる。というのも、そのショットの時点でアヌーク・エーメは愛を語るべき相手を失っており、しかもその視線と言葉は憎むべきリノ・ヴァンチュラに向けられているからである。全てを知っているのは観客のみ。非情にも浮かび上がる「FIN」の文字に対し、フェードアウトしてゆくリノ・ヴァンチュラとモジリアニの画が何ともいえず辛い。だがそれゆえに素晴らしい。
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