コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] モード家の一夜(1968/仏)

「女」の心理を見つめる、傍観者としての「男」の心理を照射したロメール節がSO-SOな作品
junojuna

 本作は「道徳」についての考察である。とりもなおさず男と女の機微は不道徳であるがゆえの優柔不断に満ちているが、ロメール作品においては、この辺りの繊細な心理が淡いポエジーを湛えてドラマティックに昇華する。ロメールが描く人間ドラマのたおやかさは、女性ファンが多いことでも知られ、その女性の媚を静かな抒情で描くことによって、いわゆる「女性的」な映画として括られがちであるが、その実、男性が主人公である彼の作品群においては顕著に「男性的」な映画臭が立ちこめて、鑑賞者である「男性」の実人生に訴えかける寓意は独特の妙味がある。言わずもがなエリック・ロメールは「男性」であるが、彼の映画の主題となる「積極的な優柔不断」は、「女性」という「異性」に対する永遠の謎を甘美な対象として純粋化しようとする感傷に根ざしたものである。そして、そこから立ち上がる「女性」の美しさは、彼の映画においては常に肉体的な官能性よりも、エゴイスティックな自己同一性として補完されることが望まれている。「男」がノマドな状態で決着しないことを主義とし、「女」をある種かどわかしている様は、ファシストとしての彼の人生観が色濃く表れているが、およそプレイボーイというものはそうした性質である。そのために「男」は「女」に裏切られ、傷つくことになるのだが、どこかそれが甘美な感傷として不可欠な情緒であるとの提示が、彼の映画の醍醐味といえよう。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。