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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋(1982/日)

色んなことを考えさせられる「小学生のお見合い」
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は筋に曲折がないのがいい。ただデートが不調で別れた、というだけの話。そこに色んなニュアンスを込めて、寅版松竹悲恋劇の秀作としている。

舟屋の二階、旅の男の寝間に未亡人が忍び込む。よくあるシチュエーションだ。もし男が渥美清ではなく上原謙だったら、女に優しく話しかけるだろう。三船敏郎だったら馬鹿野郎と説教を始めるだろうし、菅原文太なら襲いかかるだろう。寝たふりをする、という選択は渥美のものだ。この先達を辿ればチャップリンだろう。本作の寅はいつも以上にチャップリンを想起させる。

寅を笠智衆は馬鹿と云い、三崎千恵子は「甲斐性のない」と云う。しかしそれは、いしだあゆみもおんなじだろう。ただ「小学生のお見合い」のように何も話せず、いしだは寡黙な寅に「今日、寅さん、違う人みたいやから」と、実に的確な断りを述べて別れる。寅は女に恥をかかせた、とも云える(寅の後ろに満男を見つけたときのいしだのリアクションのリアルなこと)し、いしだは寅を見る眼がなかった、とも云える。どう見るかは人によって違うだろう。確かなのは、歯車の合わない逢引の、少しずつ心が離れて行くニュアンスが実に切ないことだ。我が身を顧みて、色んなことを考えちまう。

感じ入ったのは丹後出身者の身贔屓込みだっただろうか。丹後を描いてこの程度の暗さで収まるのは寅さんの人徳だろう。私的ベストショットは夕暮れの鉛色の海辺で、汽船の最終便を追いかける寅の縦構図。

冒頭の夢オチ(何故か目覚めるカットがないが)、渥美清の老人姿は、このような彼も見たかったなあという切なさがある。まだ子供の戸川京子が弾けているのも切ない。ひとつ疑問。寅のプレゼントのサンダルは、後半なんで使わなかったのだろう。山田監督はネタ振り済の小物を使い忘れることが多いように思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)週一本 ぽんしゅう[*] けにろん[*]

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