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[コメント] 美しき結婚(1982/仏)

自由を持て余す人は他人とそれを分かち合いたがるが、何かを分かち合うという事自体、相手の自由を奪う事だという点には思い至らない。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







今回の格言――「夢想に耽らぬ人があろうか、空想を描かぬ人があろうか」(ラ・フォンテーヌ)

「私は自由」と言いながら、その自由を誰かに捧げたい、と、自分を押し売りするような事を言うサビーヌ。だが実は他人の言動に左右されている所の目立つ女性で、都合の悪い事は他人のせいにする「自由」だけを享受しているようにも見える。

「私に誘われて拒む男はいない」「自分からは電話したくない」と、男が自分を求めて言い寄ってくるのをただ待っていたい女。「創造的な事がしたい」、だが絵を描くのは苦手、しかしまた、絵描きの友人のアシスタントやパートナーとして働くのも嫌。商売に興味は無い、と、自分で道を閉ざす女。

まだ付き合って間もないエドモンに、突然、自分が少女の頃に描いた絵を贈ろうとするサビーヌ。男からすれば、重い上に、知らない子供の絵を貰うのと大して価値が変わらない。また、重い女に見えてその実、自分の人生の一部を軽く切り売りしているとも言える。

冒頭とエンドロールで流れる軽快な音楽は、劇中でサビーヌが、誕生日パーティになかなか来ないエドモンを待つ中、パーティに集まった人々(だが、妹の友達ばかり!)がダンスに興じる場面で流れる曲。楽しげなリズムの繰り返しが皮肉に響く。婚活は踊る、されど進まず。

だが最後、サビーヌが列車の中で視線を交わす男は、冒頭で列車に乗り合わせ、駅を降りてからも、隣りを歩いていた男。サビーヌがエドモンに会おうとして会えないでいるシークェンスでも、列車の窓の外を流れる風景が何度も挿入され、この列車という出逢いの場が彼女のすぐ身近にあった事を匂わせている。また、冒頭でこの男が持っているファイルの色が、エドモンの弁護士事務所から怒って帰るサビーヌがぶつかる婦人の持っているファイルと同じ青色。出逢いはいつもその名の通りの出会いがしら、という意味を持たせていたと見るのは深読みか?

いずれにせよ、エンドロールに流れるテーマ曲は、今度こそは本気で期待しても良いのかも、という含みを持たせた、匙加減の上手い、余韻のある終わり方。サビーヌは、「嘘をつきたくない」「裸の自分を見せなきゃ」と言いながらも最初からどこか自身に対して嘘をついている所があって、「美しい結婚」をする、と意識してから相手を探し、自分で自分の目標に縛られている。そんな彼女にも、最後には、意識しなかった、ふいの出逢いが訪れる訳だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] moot

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