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[コメント] 満月の夜(1984/仏)

ロメールにしては表面的な男女の振り子関係に教訓めいた妙味が薄くSO-SO
junojuna

 ロメール映画に立ち上る象徴的な人物造形が、本作ではやや表面的な仕草や子供じみた内面の吐露に終始している。その不透明な男女関係の機微を描いては、性生活に教訓を浮かび上がらせる風情がロメールの境地だが、ここでは登場人物の誰もが最後まで沈着を見せることなく、含蓄のある抒情というものをいま一つ発揮しきれなかったようだ。そうした表面的な空気感は、作劇上の象徴性でもあるのか、主人公ルイーズ(パスカル・オジェ)がデザイナー(装飾家)という職業を持つことや、彼女の住むパリのアパルトマンが、彼女の美的享楽嗜好を伺わせる調度品で占められていることは印象的である。しかし、そうした志向を作中に伺えば、ルイーズがレミ(ファブリス・ルキーニ)と住む郊外(ロワシー)の自宅に掛けられているモンドリアンの絵画は、ルイーズの精神的な風土を象徴的に表しているかのようで面白く見てとれる向きもある。ルイーズがクラブで出会ったバスティアンと彼女のアパルトマンで寝た後、ロワシーの自宅へ帰ろうとする途中で立ち寄るカフェで、絵本作家へ打ち明ける彼女の独白(「これまでは、郊外での生活を流刑のように感じ、都会(パリ)での生活が中心だったけれど、今ではそれが逆転している。彼との生活が私の中心にあると気づいた」)は、それまでの間、ずっと画面を支配していた赤と青と黄色の三色配置が、レミとの暮らしの中で所有していた色彩であることの応答関係として提示され、ロメールが本作において作劇上の効果として一計を案じていることは映画らしい趣があった。本作は、これまでのロメールの諸作と比べて、手を差し伸べがたい人生の哀感に包まれて不穏である。おそらくそうした雰囲気を醸すのに若いのか老けているのか色々と不詳な女優、パスカル・オジェの存在感は大きく寄与している。本作でヴェネチア映画祭女優賞を受賞した後、25歳で急逝。合掌である。

(評価:★3)

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