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[コメント] 男はつらいよ 寅次郎心の旅路(1989/日)

ウィーン招致の企画ものらしく、時間が足りなかったのだろう。即興でサクサク撮っただけにしか見えない。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ロケは観光地を切り貼りするだけで、当然描くべき彼の地の下町(貧乏している竹下景子の住居周辺にしたらいいのに)すら登場しない。寅は観光地の悪口ばっかり云っているし。導入では面白い柄本明笹野高史の車掌がいい)の造形は徐々に酷くなり、病気が治って結構だが鬱を揶揄しているようにも取れるし、飛行機に乗って以降の我が儘は見ていて不快なレベル。竹下と別れた恋人がヴァイオリン弾いているショットなど、阿呆らしくなる。ウィーンで印象に残るのは格好いい淡路恵子(日本に帰ると云ったら彼氏がピストル突きつけた、という)ぐらい。

想像に過ぎないが国内のどこかを想定して企画され、そこにウィーンが割り込んだのだろう。国内編は面白く、それが全部無駄になっている。

冒頭の旅先の病気の件は力の入った美術。寅は病気ひとつしないという設定は覆されており、先の展開を見越してのことだったのか、などと考えてしまい、座り芝居ばかりの笠智衆と併せ、寂しさを覚える。浪人した満男話の断片は充実していて、寅を褒める満男へのさくらの「おじさんは否定したんじゃなくて否定されたのよ、世の中に」なる科白はブラック。これまでの冒頭の寅の喧嘩して出て行くパターンは満男に引き継がれている。ベストショットは空港で渡されたとじん弘から届けられた手紙を嬉しそうに皆に披露するさくら。

個人的には飛躍し過ぎの西洋など撮らず、近隣諸国を撮ってほしかった。韓国や台湾の田舎町を寅が日本と変わらないねえと彷徨く画など魅力的だろう。金日成がシリーズ好きというのは有名な話で、交渉次第では北朝鮮で撮れたのじゃないか。そうしたら世界史が変わっていたかもしれない、というのは突飛な夢だろうか。文化交流を軽視しちゃいけない。中国との国交回復もピンポン外交が端緒だったのだ。

(評価:★2)

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