[コメント] 特別な一日(1977/仏=伊)
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その時代のイタリア人にとって、ヒトラーがムッソリーニを訪問したその日は冒頭でも示される大フィーバーのとおり、重要な意味を持っていた。ソフィア・ローレンが演じた夫人にとってもそれは同じであった。しかし、マルチェロ・マストロヤンニ演じる反ファシストの男に小さなきっかけで心を開いてしまうことで、すべてが変わった……。
ローレンにとって歴史上の“特別な一日”は何の意味を持たなくなり、マストロヤンニとの出会いによって女性としての“特別な一日”という意味合いが強まった。ローレンが当初とは違った意味での“特別な一日”を経験することで、浮き上がってくるのはファシズムの無意味さだ。ファシストであることや同性愛者であることが、人間関係においてそんなに重要なことであるのか。大切なのは対面関係においていかに相手に心を開けるかということだ。それができなかったファシスト政権下の時代…。この映画はその時代を背景に一日の恋物語を丹念に紡ぎ出している。
そして、それを映画という形で表現するスタッフ・キャストが見事だった。
エットーレ・スコラはヒッチコックの『裏窓』で行なわれた撮影を応用して、そこに社会性を持たせることに成功している。音楽が一切なく、聞こえてくるのは集会のラジオ中継の音のみ。これが緊迫感を与えていた。加えて、セットであることを生かした撮影や一日の移り変わりを表現する照明も効果的だった。
役者にしても、同性愛者の男性が女性と関係を持つという難しいシーンでマストロヤンニは、表情でそれを伝えていたのはさすがだった。しかし、それ以上にローレンが感情の起伏を繊細に表すのがひとつひとつどれを取ってもすごい。ほぼ密室劇の体裁を取る映画だけに、役者に委ねられた部分も多いはず。ローレンは最高の形で責任を果たしていた。
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