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[コメント] 家族(1970/日)

1970年という時代そのもののパワーが伝わりますが、そのパワーは、人を幸せにしてるものではない事がやるせない作品です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 山田洋次監督が五年間温めつづけてきた構想を、日本列島縦断ロケと一年間という時間をかけて作り上げた作品。

 思えばハリウッドでは多くの傑作があるのに、日本ではロードムービー、特に家族での旅を描いたものが少ない。スタジオ・システムが確立されていることと、対策になると金がかかりすぎると言うのがその理由ではないかと思うのだが(低予算だったら例えば大島渚監督の『少年』(1969)なんてのがあるけど)、この70年代にそれが作れたと言うのはやはり山田監督の実力って奴だろう。

 何となく物語自体が『怒りの葡萄』(1940)っぽくあって、その部分が多少引っかかりもあるのだが、メインとなる家族の物語は骨太で大変重いものになってる。特に昔気質で引き際をわきまえてるお父さん役を演じた笠智衆が枯れた良い役を演じてる。他にも脇を固める山田組の常連役者達が良い感じ。しかし倍賞千恵子と前田吟が義理の姉弟って役は、どうしても男はつらいよ思い出させてしまって…

 ただ、本作の最大の売りは1970年というその時を切り取ってくれたという点にこそあったのかも知れない。万博に沸く大阪を始め、高度成長時代の浮かれた日本の姿と、それに乗り切れない人たちの寂しさのようなものが上手い対比になっている。特に万博は本当にそのまんまだからね。

 その万博の中で乗りきれない家族の姿。これはまさに日本の縮図そのもの。日本の高度成長政策が国民を幸せにしているわけではないと言うことが如実に示されているのだろう。

 記録としても、物語としても、未来に残すべき邦画の一本だろう。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ペンクロフ[*] TOMIMORI[*]

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