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[コメント] 裸の十九才(1970/日)

フルーツパーラーでお客は神様と教えられたのに、定食屋でカツ丼が不味いと苦情を云えばボコボコにされる。世の中はなんて複雑なんだろう。原田大二郎の眉毛は『奇跡の丘』のキリストを想起させる。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







事実に寄り添えば散漫になり、ドラマを加えれば実録じゃなくなり、虻蜂取らずで半端。それを承知のうえでリアルタイムで撮る意義は感じるが。求心力のあるのは集団就職の細かなエピソードの積み重ねや、少年期以前、母親の来歴まで遡る寒村の貧乏話であり(強姦されて精神病院に入る吉岡ゆりが印象的)、連続殺人から新宿フーテン物語に至る後半は弱い。間抜けなピストル音はもちろん異化効果を狙ったものだろう。

しかし最後、登場人物たちのインタヴューによる十人十色の事件総括だけは巧い。結局この散漫な連続殺人は空虚なゼロ地点に過ぎないが、彼に関係した人たちには各々の来歴を反映した固有の意味を与えたのだ。

大学進学した同級生の鳥居恵子の「山田君は負けたんだと思います」なる見解には非道なものが宿っているのを顕在化させているし(繰り返される学生運動への目線も複雑なものがある)、マスコミに囲まれて何も云えない乙羽信子は、それは何にも云えないだろうと同情させられる。そして「俺も拳銃ぶっぱなしたいよ」とオフレコで語る集団就職仲間の発言こそが、映画の云いたかったことなのだろう(そこで二度出てくる自動車修理工場の入口の、くるくる回る変な機械が実に奇妙だ)。

原田大二郎デヴュー作。何とも不気味な佇まいで、『奇跡の丘』のキリストを想起させる眉毛である。どうでもいい話だが、私は若い頃、彼とオウムの上祐に似ていると云われていたので、原田の出演作は点が辛くなる。オウム事件の頃電車に乗ったら、小学校の社会見学に鉢合わせになり、悪魔のような餓鬼どもが私の周りに寄ってきて上祐上祐と囃し立てられたという、とても厭な思い出も次いでだからご披露します。

(評価:★3)

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