[コメント] 海と毒薬(1986/日)
社会派文学映画の頂点。原作と現実の間を逡巡している姿が目に浮かぶようだった。
熊井監督が社会派映画監督であることを認めつつも、決して正義感を気取っているというわけではないところがスゴイところ。本来は忍ぶ川が示すように文学的、情緒的映画を目指したいところだろうが、こちらの分野における表現はもはや現代的ではなく、それこそ時代錯誤を呼び起こす。
この映画のトーン、それはモノクロであることと病室である。病室のあの光、そしてそれに照らされる病室の空気が全て現実として描写されている。
医局から窓を開ける、そこに流れ込む空気、そして病室という密閉した空気、その中で行われている現実と恐怖、そして医師という人。この関係を見事にスクリーンに投じた勇気と努力には敬意を表するしかない。
この映画は必ずしも原作を超越していないと思うが、映画は映画である。映画の世界でこれだけの表現をできる大監督は今後登場しない。むしろ未来に対してこの恐怖のほうが悲しく恐ろしい。
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