[コメント] 生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言(1983/日)
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序盤の修学旅行積立金強奪未遂事件、この顚末を描いて終わりにするのが大抵の映画の常道であるが、この作品は加害者(被害者もだが)のその後を描く。他に生業もなく原発ジプシーになろう、と。この吹き溜まりな殺伐とした場所の磁力からは戦前のフランス映画の外人部隊ものが想起される。フクシマ以降有名になったこの労働形態、バブリーな80年代にはマイナーな出版物でしかお目にかかれなかったと記憶しているし、本作も映画プロパーは絶賛したが外部からは無視された映画だった。森崎のようなスタンスが結局は勝つのだ。長生きはしてみるものだと思う。私も親元は原発銀座だしいろんな形で関係している人が知人にも親族にもいる(炉のなかへ入ったこともある、見学だけど)が、どんな意見も森崎の突き付けた事実には太刀打ちできないだろう。こんなグロテスクな地域経済の活性化などあってよい訳がない。
本作は原田芳雄の代表作だろう。いつもの目の据わり具合がいつもにも増して怒気迫るのは内実あってのことである。平田満相手に倍賞美津子への惚気をいかにもアドリブっぽく語る件がいい。「沁み込んだウラミニウムも消えまへん」もアドリブだろうか。上原由恵の儚さも忘れ難く、原発の見える浜辺での焚火を囲んだ長科白は泣かせる名シーンだ。俺たちのことで悩んでくれる平田を本当は好きだったという元不良少年の告白は美しく、夜勤に行ってくると云う彼に抱いてと迫る倍賞もまた美しい。あの現場に女は入れないのだから、切なくなるのも無理ないと思う。怒れる人情を描いて森崎の独壇場である。
そして最初の拉致から最後の悪夢まで、平田満の地獄巡りという線で統一が図られている脚本は巧みなものだ。殿山泰司を脇に座らせている配役も素晴らしい。相当カットされているようで人間関係が判りづらい処が幾つかあるのが惜しいが、小さな瑕疵に過ぎない。
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