[コメント] バットマン(1989/米)
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<オープニングのケレン味 その2>
相変わらず好調のオープニングの作りは、『ビートル・ジュース』、『シザーハンズ』の間にはまった面白いカメラ・ワークで、町並み(あるいはオブジェ)に肉薄し、流れるように移動する。そして最後に空高くに上がって今まで見てきたところを俯瞰して見るのだが、それが三作品それぞれに全く違うの。この作品ではそれが巨大なオブジェであり、しかもそれが巨大なバットマンのマークになっているという凝りよう。いいねえ。このケレン味。
本作はティム=バートンが『ビートル・ジュース』に次いでマイケル=キートンを主役に据えて作り上げた作品。以降の『バットマン』シリーズの方向性を決定づけた作品である。
ベテルギウス役で馬鹿に徹したキートンがヒーロー役?ちょっと危惧があったが、意外にもこの役、彼に良くはまっていて、キートンの芸風の幅というものを感じさせる作品だった。そしてバットマンに絡むジョーカー役がジャック=ニコルソン!これ程はまった役は無かろう。見事に役柄にはまった二人が織りなす狂気の映像。まさしくそれがバートンの求めたものだったのかもしれない。
特にニコルソンの、完全に向こうの世界にイッてしまった演技は特筆もので、あの謎めいた台詞(なんて言ったっけ?「月夜の墓場で(何かと)踊ったことがあるか?」だったと思うけど)、自分を罠にはめたグリソムに向かって大笑いしながら何発もの銃弾を撃ち込むシーン、地の皮膚が白くなってしまったため、変装のために肌色を塗りつけるシーン。色物のように見えて、その魅力を最大限に活かしていた感がある。ジョーカーという名前の通り、まさしく“笑いの狂気”と呼ぶにふさわしい。
ゴシック建築風に作られたゴッサム・シティの造形は見事で、昼のない夜だけの町並みを巧く表現していたんじゃないかな?確かに前評判ほどスピード感は感じられなかったけど、逆にそれがバットマンの武器をくっきりと映し出していたし。やや凝りすぎの感があるカメラ・ワークが良い。それになにより、バットマンは夜の町が似合う。ゴテゴテしたゴッサム・シティだからこそ、彼の姿は映えるのだ。
ところで、アメリカン・ヒーローというのは古来、人を守って戦った。彼らは家庭では良き父親であり、夫であるのだが、人のため、又国のために働くことに疑問を抱くことなく、基本的に争いは嫌いでありつつも、正義を遂行するためには敢えて悪人殺しを辞さない人間だった。オリジナルのバットマンでもそれが踏襲されていたはずだ。ところがここでのバットマンはそう言う倫理観は持ち合わせていない。彼はただ、悪を憎み、悪を撲滅するためだけに活動する。結果としてそれが人助けとなることはあっても、ある意味彼の行っていることは命がけの趣味に過ぎない。考えてみればこれほどにはた迷惑な人間はない。
そのようなヒーロー像を作り上げたバートンが、私は大好きだ。
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