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[コメント] M★A★S★H(1970/米)

戦争そのものを笑うこともやっぱり反戦の一つの方法です。ちょっとドギツすぎる気もしますけどね。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 戦争を扱った作品は数多く、その中で人間の狂気について強調される作品は数多い。ただ、狂気を表すというのにも本当に色々あるものだ。

 戦争の狂気を描くのに、悲しい話や戦闘の繰り返しを描くことも一つの方法で、これが一番作りやすいのだろうが(邦画はそれに落ち込みすぎた)、他にも人間の内面に入り込んだ作品を作ってしまった『地獄の黙示録』(1979)なんてものもある。他にも戦争終了後のPTSDを描いた『ディア・ハンター』(1978)などの方法があるだろうし、色々方向性はあり得ると思う。ただもう一つ重要なものとして、徹底的に戦いを笑いにしてしまうと言う方法もある。実際に戦争に行っている人間は怒るかも知れないけど、戦争というのはこれほどばかばかしいものですよ。と言うことを伝えるためにはこれも重要な方法だ。日本でも『独立愚連隊』(1959)がかなりそれに近い。本作もそういうブラックジョークを連発する作品だが、ここでの最大の特徴は、戦いが全く描かれることがないという点にある。確かに負傷兵はどんどん運ばれてくるし、手術室なんてのは血まみれ。しかし実際の戦闘はちょっとだけ先で行われていて、そこでの恐怖も伝わってくる。しかしここにあるのは戦いではなく、単なる狂ったような人間ばかり。この設定にはとてつもなく痺れる。ここまで徹底してやってくれたお陰で、本作は良識ある人間から観たなら嫌な思いをさせるだろうが(事実本作は当時の批評家には大変受けが悪く、吐き気がすると言う評もあったそうな)、嫌悪感を覚えさせることも本作の目的の一つには違いない。

 性的且つ差別的なものが多いために笑いの質としてあまりにどぎつく、私自身腰がちょっとひけもしたが、逆に映画でそう思わせる所までやってくれたことがなにより評価できる。

 ドキュメンタリー映画の『華氏911』(2004)で兵士は装甲車両に乗ってハードロックをかけまくりながら掃討していたという描写があったものだが、そういう狂気保っていなければ戦争は出来ない。その不自然さは当然野戦病院へと伝播していく。そして同時に本作の戦争に出ない主人公達は、そう言う奴らを笑い飛ばしてなければ逆に精神が保たないのではないか?

 戦争とは、それほどまでに非人間的な所産なのだ。という事なのかも知れない。

 本作はアルトマンの出世作となったが、ここでようやく作家性を出すことが出来たためか、暴走しまくったとも言われている(主演のグールドとサザーランドの方が監督を押さえたという逸話も残る)。顕著なのが音声で、複数の人間が喋る声を重ね、観客にどの音を聞くかを選ばせるという、邪道とも言える手法を使っているのだが、それが良い具合に効果を上げているのも確かな話。

 尚本作の製作に当たったのは20世紀FOXの名物プロデューサーダリル=ザナックの息子で当時社長のリチャードだったのだが、息子の将来を心配したザナックによって社長を下ろされてしまったという逸話も残ってる(ちなみにその後リチャードは独立プロを作り、『スティング』(1973)、『ジョーズ』(1975)を製作し、この2本で父親が生涯に製作した全作品を超える収益を上げてしまうというおまけが付いた)。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)tkcrows[*] けにろん[*]

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