コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] のど自慢(1998/日)

白亜の市民会館で「のど自慢」。

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







関東の地方都市、静かな冬の田園風景にタイトル「のど自慢」。わるくない。

でも、登場人物にあまり納得できない。とくに焼き鳥屋(見習い)のお父さんとその家族。どう考えても「のど自慢」より生活を賭けた仕事の試験の方が大事ではないの?何故それそっちのけで「のど自慢」にそんなに盛りあがれるの?分からない。それと自閉的になっている少年、彼がお祖父さんの歌うのを見て元気を回復するのはよいとしよう。けれど何故彼は自閉しているのか、それがはっきりしないので、結局彼の回復も上っ面ばかりになぞられたものに見えてしまい、やはりよく分からない。売れない演歌歌手の人物像も、その背景に共感できないので、ちょっと肩入れしにくい。イチバン面白くなりそうなタクシー運転手は結局歌えない(笑)。いや、これは後から考えると(笑)なのであって、劇中では欲求不満になってしまう。

そんな彼らがどうにかこうにか参加する「のど自慢」。でもこれが、彼らの思いが地に足つけた日常感覚から立ちあげられるような感覚で描出されないので、どうもピンと来ない、泣けない。「花」は楽曲の力が凄いのであって、映画の力で泣けるのではない。

この映画でイチバン印象的なのは、むしろたとえば伊藤歩。彼女はまだ演技が下手だと思うけど、劇中いちばんホロっときたのは彼女が歌いながら泣いてしまい声を詰まらせるところだった。(ホントに泣いてたから。)突発的に引き込まれた。それともうひとつ印象に残っているのは、市民会館のまえで話し込む演歌歌手とマネージャーの場面。場面そのものよりも、その市民会館という場所の無根ぶりを露呈してしまうかのような薄ら寒い風が嫌だった。地方都市の空気ってこんなだ。ちっとも温かいものなんかじゃない。郷里幻想なんて(少なくとも自分には)投影できない。(その点、続編の『ハワイに唄えば』の方がまだ安心して観ていられたりする。ハワイには郷里幻想を投影できるのだ。)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (3 人)tredair けにろん[*] R62号

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。