[コメント] シン・レッド・ライン(1998/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ハッキリ言って地に足がついてない。現実の過酷で悲惨な戦争を描いた映画なんて、とても言えないくらい甘ったるい。
彼の映画の中の風景は確かに美しい。現実の物語を希薄にしてしまうくらい。それは『天国の日々』(『地獄の逃避行』は未見)の時と全く同じ。言ってみればその風景は、ほとんど「楽園」の域に達している。つまりは現実の風景にしては、あまりに「濁り」がないのである。この「楽園」のような風景が、多分映画の中で頻繁に使われている「善」であり、戦争が抱える様々な苦い現実は「悪」なのであろう。
そして結局この映画の中で戦争という「悪」は、主人公を死後の「楽園」に逃避させるための引き金でしかない。「世界は一つしかない」というショーン・ペンの存在が、一見現実味をこの映画に持ち込んでいるようにも思える。が、しかし、そんな彼の存在ですら希薄にしてしまうくらい、「楽園」の風景は抗い難い魅力を放っている。ラストの「自分が一つの島になる」云々も、この映画の雰囲気の中では、不思議と「自己の殻に閉じこもる」的なニュアンスで聞こえたりもする。
結局監督自体が、現実に向き合うことなく「自然」という名の楽園に「逃避」しているのであろう。大いなる「逃避」映画と呼んでしまいたい。傷ついた兵士たちは目に写る美しい空に、逆に今身を浸している現実の醜さを思い知らされているように見える。「楽園」(又は「善」と呼ばれるもの)も人間社会には存在せず、現実は「悪」に満ちた世界でしかない。そして善悪の二分化を価値の背景に置いてる彼の独り言は、どうしようもなく底が浅い。善悪ということで、一見宗教的な世界観を孕んでいるようにも思えるが、そういう見方をするにしても、あまりに背景が曖昧で浅いと言わざるを得ない。
詳しい指摘はハイタカ様のreviewで、既に明確にされてるので、あまり付け加えることはありません。個人的にはこの監督が、一生現実から逃げつづけるのではと思うと、それだけで哀しくなってくる(ただでさえ寡作なだけに)。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (3 人) | [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。