[コメント] 集団左遷(1994/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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89年バブルの夏。ラーメン屋の夫婦の前に手付一割、1憶5千万円が置かれ、複合都市新宿アートヒルズの看板が立てられる。「ヤクザが火付けに使った鼠」の焼死体を少年が指さす。バブル崩壊後に中村敦夫は柴田恭兵とヘリ(何で運転できるのだろう)から東京を見下ろし、小さい空き地が死んでいる、殺したのは俺たちだと指摘している。なるほど都会には、意味なく空いている土地があるものだが、あれはバブルで買った切り貼り前の土地なのかと勉強になった。この掴みが映画としては一番いい。
94年、平成不況の夏。看板は泥だらけ。新宿地下街に段ボールホームレス。不動産屋は新規募集無、希望退職募集。コンサル江波杏子を囲む役員会議。三か年計画、初年度には800余名のうち100名が合理化の対象。特販部つくって無理なノルマで達成できない奴全員馘首という無茶苦茶。江波曰く「役員の方にも血を流す覚悟で臨んでいただきます」。ヘロヘロと笑っているだけの神山繁の社長が終盤活躍するのは定番だが上々(副社長の津川雅彦に利用されているようで逆に利用していたという件が漠然とある)。
広告費ゼロ、木組みの看板立てて周り、住み着いたホームレス追い出して、チラシ配り(引きつけてからさっと渡せという組合仕込みのノウハウネタ)でトラブル、草刈りして蛇が出て、俺たち一流企業にいるのに社員は三流と自虐して、荒れ狂う居酒屋。こういう前半に味がある。
後半は何となく事態が好転して薄ぼんやりと終わる。それでも、東宝の社長ものみたいにハッピーエンドにせず、森繁みたいな津川雅彦を最後まで敵方に追いて幾らか世知辛く終えるのは節操があった。「サラリーマンなんで会社を追い出されたら陸に上がった河童も同然なんです。見捨てないでください」と敦夫に愚痴る小坂一也は、特販部全員をリストラしたい津川のスパイとなって新築物件に放火。こんな動機で放火する人もいるのだという学びがあった。CGでなく景気よく新築燃やして、各人が悲哀をぶつけている。
放火した小坂を評して恭兵は、狂っているのは我々みな同じと云う。「特販部なんて処に放り込まれたのに精一杯仕事をしてしまう俺たちは狂っている」「仕事を与えられたら仕事をしてしまうサラリーマンの性」「仕事をさせてください」。この一連のキメ科白、迫力で押し切るが前半と後半で意味が合っていないように思う。土下座された伊東四朗の社長がつい契約してしまうのは、伊東四朗がバカだからという感想が惹起されてしまうのだった。
敦夫が前任社史編纂室長ってのがいい。私もそんな部署にいたことがあるが私もリストラ対象だったのだろうか(!)。高島礼子は上手く作劇にハマっておらず、津川雅彦と別れて恭兵にヨロメく場所がバブリーなウォーターフロントっていうのは映画の趣旨が違うと思う。若手の湯江タケユキはいい見せ場があった。本作の柴田恭兵は竹中直人に似ている。
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