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[コメント] 追想(1956/米)

このアナトール・リトヴァク、全くハリウッドの粋、と云いたくなる豪華かつ周到な造型だ。ちょっと嫌らしいぐらい作り込まれているのだが、古い映画が好きな私は、とても感動した。
ゑぎ

 パリの夜景の俯瞰から始まる。1928年のロシアン・イースターの夜。ロシア正教会の前、イングリッド・バーグマンが咳をして歩いて行く。セーヌ河畔の夜の黒さの表現がいい(照明があたっているいる箇所は明る過ぎるが)。撮影は、ジャック・ヒルデヤード。美術も見事で、バーグマンの準備・トレーニング場面では、絶えず窓外が映っており、エッフェル塔と、その前を走る列車が見えるのだ(多分ミニチュア)。

 ユル・ブリンナーがリーダの、準備プロジェクトの男たちの中では、エイキム・タミロフサッシャ・ピトエフの凹凸コンビが面白い。特に、道化と呼ばれるタミロフ。可哀そうな役かもしれないが、彼のキャラを存分に発揮した美味しい役なのだ。そして、満を持して登場する、アナスタシアの祖母、ヘレン・ヘイズが素晴らしい。気難しい老婦人のモチーフは、ハリウッド映画の常套だが、ヘイズがバーグマンを認める場面は涙を禁じ得ない。ラストの舞踏会の造型も見事だが、ホールの階段上のヘイズで締め、奥の間のブリンナーとバーグマンを映しもしない、というシーン構成の大胆さに感銘を受ける。原作戯曲の通りなのかも知れないが、それでも、ヘイズの存在感があるからこそ成立する、卓越したエンディングだと私は思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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