[コメント] サイコ(1960/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
オチは途中で予想がつきました。しかし、それでもなお面白い映画だった。この映画はオチだけでなく、それに至る脚本、映像、音楽、すべてがよくできているわけだ。ここではその中でも、脚本に注目したい。
観終わったとき、一番最初に思ったのは、「前半の逃亡劇は、何だったんだ?」ということだった。モーテルでの殺人と全然関係ないじゃないか。いやいや、これは僕が、ジャネット・リーが殺されることを知っていたからだ。予備知識無しで観た当時の人たちは、唐突な殺人にびっくりしたことだろう。
某漫画家が言っていたことだが、彼は先のストーリーはあまり考えずに描くという。その場の思いつきで描いていった方が、読者も予想ができず面白いからだそうだ。これはギャグ漫画ではよくあることらしい。 しかし、言うまでもなく、そんな方法では、緻密なストーリーをつくるのは難しい。まして二転三転と話をひっくり返していたら、ぐちゃぐちゃになってしまうだろう。『ゲーム』などがその例だ。
この映画がうまいのは、話が二転三転しても、脚本はきちんと整理された形になっていることだ。 ストーリーは、大きく3つに分けることができる。
1 現金を持ち逃げした女の逃亡劇。
2 私立探偵による調査。
3 妹と姉の恋人による調査。
このように第1幕、第2幕、第3幕と、まとまりを持った単位で構成されているのだ。さらに、このような構成の推理小説は多数ある。つまり、
1 殺人事件の発生とそれに至るまでの経緯
2 刑事たちの調査(しかし事件は謎が深まるばかり)
3 名探偵の調査と推理(事件解決)
という展開だ。1や2では探偵は全く登場せず、第三幕になって初めて現れるストーリーも珍しくない。つまり、『サイコ』は二転三転するものの、きわめてよくある形式のストーリーなのである。
雑然と整然の絶妙なバランス。その巧妙な脚本がこの映画を面白くしているのだ。
****** 追加 ************
さて、ここまでが以前書いたレビューであるが、ちょっと付け加えたくなった。というのは、このたび、創元社文庫から出ている原作を購入したからだ。前回レビューを書いた当時、僕は原作があることさえ知らず、ストーリーは映画のオリジナルと思い込んでいた。
原作を読んでわかったのは、上記の脚本は、原作あってのものだということだ。ノーマンと母親のやりとりから、殺人、そしてどんでん返しまで、映画のストーリーが原作にはしっかりと書かれているのだ。もちろん、逃亡劇を詳細かつスリリングに描き、ジャネット・リーが主演であるかのように見せかけたのは、映画の上手なアレンジだ。原作では、1ページ目からノーマンが登場し、彼が主人公になっている。彼が母親と喧嘩をしているところに、客マリアンが現れるという展開である。マリアンがお金を持ち逃げしたことは、簡単に説明されているものの、映画のような逃亡劇は無い。だが、原作者ロバート・ブロックの緻密な小説があったからこそ、あのような脚本ができたのである。映画ばかりが有名になっている今、僕自身の反省も込めてロバート・ブロックにも拍手を贈る。
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