[コメント] 地球防衛軍(1957/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
多くのコメンテーターがご指摘の通り、モゲラには機械化された米軍をイメージさせるトラウマがある。
高度な戦闘ロボットに対して警官隊のピストルは無力であり、頼みの防衛隊も悪戦苦闘する。まるでノモンハンで機械化されたソ連軍戦車に蹂躙された日本軍のようでもある。太平洋戦争において航空機と艦船に関しては連合国軍と互角、あるいはそれ以上の技術力を発揮した日本軍もこと陸上に関しては圧倒的な劣勢にあった。日本軍の戦車は連合国軍の装甲車程度の兵器でしかなかった。モゲラは歯が立たない敵重戦車そのものであろう。
この作品に描かれた防衛隊は煩わしい防衛待機命令や防衛出動命令などを待たずに即座に出動している。後の阪神大震災での苦い体験が思い出される。そして防衛隊は住民避難を第一として行動し始める。
12年前の日本陸軍はサイパンで沖縄で住民を蔑ろにし、或いは盾にして自らのアイデンティティーを喪失していった。そんなトラウマを必死で振り払うかのように防衛隊は住民避難を行う。もう住民に竹槍を持たせようとはしない。
そしてこの作品には国連を第一義とする国連主義が高らかに謳われている。折りしもわずか4年前に朝鮮戦争が停戦したばかりの国際情勢を色濃く反映しているのである。朝鮮では電光石火に南進する北朝鮮軍に対しアメリカを中心とする国連軍が奇跡的な反撃をした。実にアフリカ・南米・アジア・ヨーロッパの22の国家が参加していた。
隣国の韓国が釜山まで追い詰められて崩壊する寸前の様を見ていた日本は、急遽警察予備隊を創設するようマッカサーに命令され、後の防衛隊(自衛隊)になった。日本人は怯えていた。釜山が陥落すれば次は九州が最前線になる。そんな時に国連の御旗を立てた国連軍は日本人に勇気を与えた。結果的に中国参戦やソ連空軍の登場で国連軍は敗退するが、これ以来、日本は「国連」という言葉の魅力に取り付かれる。現在もである。
かつて全世界を敵に回し孤立した日本にとって「国連軍」は魅惑的である。どこからも非難される事なく戦うことが出来、そこには「崇高な」目的がある。(ありそうだ)
この作品でも特にアメリカとの日米協調が謳われている。この作品の公開の2年後に巻き起こる60年安保闘争などまるで眼中には無い。安保闘争に始まる防衛隊(じゃない自衛隊)にとっての暗黒の時代を通過した現在、PKO・阪神大震災・北朝鮮問題・イラク派兵(?)と再び自衛隊への認識が改まろうとする現在、時代遅れの本作が何か妙にフィットする課題を投げかけていると読むのは深読みであろうか?
また最後に、この1957年は国際地球観測年として宇宙への大いなる飛躍の年でもあった。GHQにより解除された航空関連禁止措置から5年。日本は全長26cmのペンシルロケットから宇宙空間へ飛び出すカッパーロケットへ進歩し、ソ連は人工衛星スプートニクを地球周回軌道に乗せた。(日本が初の衛星に成功するのは13年後の1970年である。)
ラストの佐原健二の台詞。「あれはっ?」「あれはミステリアンを監視する為の人工衛星だよ」
現在、人工衛星は「異星人」からの侵略を監視する為ではなく、同じ地球に住む「異邦人」を監視する為の道具になっている。しかし、そんな衛星も最近では打ち上げ失敗が相次ぎ、日本の宇宙への挑戦は頓挫しかけようとしている。
ミステリアンはまたいつ来襲するか分からない。元特撮少年たちの夢の為にも自衛隊の正しい使い方と宇宙航空技術の成功をお祈り致します。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。