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[コメント] 市民ケーン(1941/米)

「当時としては面白い作品」なのだろうか?
ExproZombiCreator

批評家、マニア、オタクたるもの「あの時代にしては凄い」とか「このジャンルにしては面白い」とか「低予算にしては豪華」といった<但し書き>を明瞭にするのは大事なことだと思う。

それではこの作品にはどのような但し書きがあるだろうか? 

「監督の若い年齢のわりに面白い」のは確かだが、あまり語るべきことは無い。

「1941年作にしては面白い」が、そこを強調してしまうと、もはや古びてしまった化石映画扱いしてしまうことになる。

「オリジナル脚本」としてはぜったいに素晴らしい。複雑な構成の古典といえば『羅生門』があるものの、これは後発のうえに原作つきである。

「選んだ素材にしては面白い」という点は『市民ケーン』を鑑賞するうえで、極めて重要だと思う。俗物極まりない性格の、実在の新聞王をモデルにして面白い作品を作れ、と言われても難しい話だ。現代の作品で喩えると「フィクション作品化した華氏911」といった感じの作品だが、決して「ブッシュとビンラディンが銃撃戦を繰り広げる」ような過激なアレンジは施されていない。モデルとなった人物からの訴訟や圧力回避の手段としてのフィクション化だと考える。よってノンフィクションに近い作品であり、地味な内容になってしまうのは避けられない……が、それにしては素晴らしく面白いではないか。ノンフィクションの有名作というのはことごとく「泣かせ」や「戦争と人間の業」を基調とした作品だが、そこから外れているわりには素晴らしく楽しい。全盛期のスピルバーグやキャメロンが市民ケーンを「最新の技術をフルに投入して」リメイクするとする。オリジナルよりも面白いものになるだろうか? 「面白い」という言葉の意味が通俗的なニュアンスであっても、私は難しいのではないかと思う。

「大して面白くない物語を<全コマが写真として通用するクオリティーの画>とする事で退屈しないよう仕上げた作品」というくくりで評価するなら、『七人の侍』『2001年宇宙の旅』『シンドラーのリスト』あたりとの対決になる。七人の侍とシンドラーのリストは感情移入や緊張感を伴う大衆的な要素を持った素材だし、2001年〜は雰囲気が重要なSFというジャンルなので、この観点で言えば反則といえるほどの適切な素材のチョイスだ。

このように、今作は素材の悪さが際立っている。といっても、新聞王という素材は当時の時事ネタとして重宝されたものであり、かの有名な『水源(映画名=摩天楼)』でも扱われている。よって『ベニスに死す』のように「高尚な素材を選んだため大衆には理解できない」という言い訳は通用しない。当時の大衆はワイドショー的な感覚で現代人よりもずっと楽しめたに違い無い。

さて、5点という点数をつけた私でも、あるていど古びた部分が存在することを認めるが、現代でも完璧に通用するシーンはあると思う。それはオープニングであり、この作品以上のオープニングを観た事が無い。銃撃戦やPV風のオープニングは派手さがあり最初の「掴み」の役割は果たしているが、作品を観終わるとすぐに忘れてしまう。暗い密室でボソボソしゃべっているようなスタートは、物語へ引き込まれはするものの、辛気臭そうな印象をおぼえてしまうし、何よりも画で語るべき映画らしからぬ始まりだと思う。好奇心もあまり煽られないし、シンボリックな物も登場しない事が多い。市民ケーンのオープニングほど好奇心が煽られ、緊張感漂い、画で語り、作品の核心が詰まった、不要な出来事を起こしていない純粋なオープニングを知らない。

「あの時代にしては」という但し書きをつけないかぎり永遠の最高傑作ではないと思うが、ジャーナリズムというものがあるかぎり、不滅の名作であることは間違いないと思う。って、また但し書きがついてしまった。パンフォーカスとは何ぞや? 市民ケーンのどこにパンフォーカスが使用されているのか? それすら全く見当がつかない私でも楽しめたのだ。期待するよりは全く期待せずに、肩の力を抜いて鑑賞すればきっと楽しめると思うし、現代においても一見の価値はある作品なので、マニア達は後世に伝えるべく布教するべきだ。

2011/1/6 初鑑賞

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ゑぎ[*] 太陽と戦慄[*]

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