[コメント] 侍(1965/日)
江戸末期、幕府の権威を木っ端微塵に打ち砕き、いわば時代の流れを300年前に、下克上が当たり前とされた戦国時代にまで引き戻すかのような、強烈なインパクトを日本に与えた、大老・井伊直弼を暗殺した桜田門外の変。
モノの本によれば、時の幕府中枢は暗殺の事実をひた隠すために、取り戻した井伊直弼の首を胴体に縫い付けて、布団に寝かせて重病人扱いし、それを見舞ったがあえなく病死、としようとした喜劇的なエピソードもあったとか。
本作では、狂言回しにあたる東野英治郎がまずよい。シリアスにして重厚な時代劇の語り部として、本格的な俳優を用いてこそ、その格式があらわれる。
さらに三船敏郎の浪人を主人公にし、それを軸としながらも、幕府の威信を一身に背負った大老・井伊直弼、それを暗殺せんとする狂気の集団へと変貌していく水戸の浪士たちの凄まじさ、そして三船の出生に思いを寄せる木曾屋東野英治郎と女将など、群像劇としても第一級のものとなっている。
それらが一つに合わさった奔流のように迎えられるクライマックス、雪の桜田門外で井伊直弼の行列に襲いかかる水戸浪士たちの襲撃シーンは、まさに白眉。スクリーンから片時も目が離せない。これまで見てきた時代劇シーンでも屈指の出来栄えだった。
☆☆☆オマケ☆☆☆ 私は本作を1970年製作の『待ち伏せ』との二本立てで見た。こちらの方は、三船敏郎主演ながら、勝新太郎、石原裕次郎、中村錦之助という超大物スター競演の時代劇。
しかし、大物スターの見せ場をつくることにのみ汲々とした映画で、結果としてそれぞれのスターの演技は面白くもなんともない型どおりのもので、まるで宴会の出し物を見ているようであった。
しかしこの『侍』はそれとはまるで違う。製作時期が違うので一概には言えないが、少なくとも監督の統一した意思の元にきっちりとした芝居をつけられ、全編の中で確固とした位置を与えられた役者がどれだけ輝くものか、『待ち伏せ』との比較で鮮やかに浮き上がった。
そういう意味ではなかなかに凄まじい二本立てではあった。
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