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[コメント] ヴィトゲンシュタイン(1993/日=英)

 「語り得ないことについては、沈黙せよ。」 これは映像部門の「語り得ないこと」について果敢に挑戦した実験作であり、成功した傑作であると思う。
にくじゃが

 もともと、頭の中を描くのに映像を使うのは不適当だと思う。「すごく怒ってる」とか「少し悲しい」なんかの感覚を表現することは映像にも文章にも出来るけれど、数学、物理学等々の「理性的に表現するもの」を映像でやるのはどうも無理でないのか、と思う。だって映像って「見るもの」だし。

 この映画は、そういう「よく考えてみないとわかんないよ〜。考えてみてもわかんないよ〜。」という頭の中の出来事を、哲学者なんつー、普段の生活では気付かず通り過ぎてしまうことにもいちいち口を挟むとってもおしゃべりな人種を通じて、彼の言葉の断片をちりばめながら見せてくれる。デレク・ジャーマン独特の貧乏くさい作りが、ここでは周りをいっさい遮断することでものすごい緊張感を作り出し、頭の中をうまく表現できない哲学者の孤独を見せてくれる。動きは少ない。でもその緊張感と彼の頭の中をやっとこさ表現できた数少ない言葉、それだけで75分間突っ走る。動きは少ないからゆっくり歩いているのかもしれないけれど。

 「そんなの実際にヴィトゲンシュタイン読んでみりゃあいいじゃん」なんて言ってはいけません。数学がさっぱりで論理学・記号論を取るのを諦めた人物(わたし)には読んだところで何がどうなっているのかよくわからんのです。恥ずかしいわ。

 なにはともあれ、これは理論系の奴らが「どう生きたか」ではなく「何をしたか」について描くことのできた唯一の映画だと思う。少なくとも私は他に知りません。

(評価:★5)

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