[コメント] コックと泥棒、その妻と愛人(1989/英=仏)
美と醜とが互いを際立たせ合う。反復される横移動に時折、縦の構図を加えるシンプルな構成。レストランを挟むように配された厨房とトイレ。地獄の拷問部屋のようにケバケバしい厨房に対し、トイレが最もクリーンな空間であるという矛盾と皮肉の批評性。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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その清浄(?)な空間であるトイレで愛し合った二人が、反対側(画面左)に位置する店外に停められた、腐敗した食材を積んだトラックに押し込められて逃走するシーンの狂乱ぶりの滑稽と、殆ど残酷さにまで達した露悪趣味。
ラストの人間姿焼きを前にした泥棒・アルバート(マイケル・ガンボン)に向かって妻・ジョージーナ(ヘレン・ミレン)が命じる「おちんちんを食べなさい」は、夫が、男根の代わりに数々の玩具を妻に突っ込ませていたことへの復讐でもあるのだろう。アルバートはレストランで、マナーについて大声で神経質にがなり立て、その行為自体がマナーを徹底的に破壊していたのだが、そうした暴力的な支配は、食と性の両方に渡っていたわけだ。
ただ、レストランで本を読みながら食事をするマイケル(アラン・ハワード)を不快に感じるアルバートの気持ちだけは、或る程度は共感する面もある。
地獄を清める天使の声のような、皿洗いの少年の歌声が、却ってその場の不浄さとカオスを際立たせること。アルバートによる破壊と暴力行為のスペクタクル。ティム・ロスの、半ば脳ミソが溶けたような、締まりのないキャラクター。痴愚と混乱と残虐と汚辱が、そのまま奇怪な祝祭性に達するエネルギー。
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