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[コメント] 小さな泥棒(1989/仏)

シネコンは映画館と似て非なるものである。(05・5・8)
山本美容室

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この映画は私にとって大変思い出深い作品である。名古屋駅の南口にゴールド劇場、シルバー劇場という二館ならんだ映画館がある。この映画はそのどちらかで観たのは間違いない。

 前売り券が残っていないので、予告編が気になってふらりと入ったのだろう。当時はそんな事をよくやっていた。二本立てが殆どの時代で『エッグ』というオランダの映画と併映されていた。

 この『エッグ』という映画は残念ながら17年経っても見ることが出来ない。誰か他に観た人はいないのだろうか?

 なんとなく観た『小さな泥棒』だったが「なんとなく」が二回も観てしまった。あの当時は就職したばかりで同じ映画を二回観るという行為は大変な事だったのだ。

 この映画は「暇つぶし程度」だった「映画」に対する姿勢を転換させられた作品として記念碑的存在である。また映画中毒になる契機にもなった。

 恥ずかしながら『小さな泥棒』以前は「ヌーヴェル・バーグ」という言葉も知らなかったぐらいで「ハンバーグの一種だろう」ぐらいに思っていたのだ。(すいません。ウソです)

 この作品を観てからフランソワ・トリュフォージャン=リュック・ゴダールの映画を観たのである。

 『小さな泥棒』はトリュフォーの遺作シナリオを元に作られているためかトリュフォー映画を連想させる場面がたくさん出てくる。

 今回見直してみただけでも『柔らかい肌』(猫にミルクをやる場面)『二十歳の恋』(ジャニーヌがメイドの仕事について窓を開ける場面)『終電車』(シャンソン)『逃げ去る恋』(インスタント写真)他にも見逃した場面があったかもしれない。

 ゴダールの『男性・女性』のジャン・ピエール・レオに似た煙草のくわえ方を若いボーイフレンドがしているのも面白い。

 最後に警察に追われたジャニーヌシャルロット・ゲンズブールが逃げる場面は、映画館の使い方として実に正しい。

 映画館とは「日常から逃避する場所」である。ゴダールの映画でも犯罪を犯した主人公は必ず映画館に逃げ込んだものだ。上映時間を気にしながら観にいく「シネマコンプレックス」は「映画館」と似て非なるものだと思う。

 この映画にはトリュフォーだけではなく「ヌーヴェル・バーグ」そのものへの愛が感じられた。

(評価:★5)

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