[コメント] 座頭市物語(1962/日)
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1962年は、邦画の斜陽化を決定づけた年として記憶されることが多い(邦画では質の良い映画が多い年なんだけど)。テレビの普及率が一気に上がると共に、娯楽の対象は劇場から家庭に移っていった時代だった。
各映画会社は、人気俳優を使ったアイドル映画を作ってみたり、人気シリーズを連発したりと、何とか客離れを食い止めようとしていた。そんな中、偶然に生まれたのが本作。製作した側としても、半ばつなぎのような感覚で投入したらしいが、案に相違して予想外のヒットを飛ばし、1973年までに25本が製作される人気シリーズとなった。又、それまでさほどぱっとした役がなかった勝新太郎を一気にトップスターとしての地位を固めた作品でもある。勝自身もこのキャラクターには相当の思い入れがあるらしく、後に製作されたテレビシリーズでは総指揮も兼ねている。
元々本作は子母沢寛のエッセイにほんの数ページ書かれていた仕込み杖を使う盲目の男を主人公に映画化されたもので、元ネタがあると言っても、殆ど設定だけ。魅力的なキャラクターを作りたいように作ったのが功を奏したのかも知れない。
それで改めて本作を観てみると、本当に色々なものが詰められている。座頭市自身はまだ過去については語られておらず、むしろ彼を触媒として数々のドラマが展開されているのが面白いところで、労咳を患う鬼神の如き強さを発揮する平手造酒(天知茂)や、親分により市に付けられた蓼吉、揺れる女心を演出したおたね(続編で実際は市の元を離れたことが分かるが)等々。それを引き出したのは市のキャラクター性で、目が見えないと言うことをしっかり演出の中に取り入れた巧い作りとなっている。しっかり存在感を出してたし。
キャラクターと言えば、平手造酒を演じた天知茂の名演に尽きるのではないか?彼は実在の人物で、多くの時代劇に登場するが、本作で余命幾ばくもないことを知り、その死に花を咲かせようとしたように、鬼神のような強さを見せている。喀血し、自分の血にまみれながら返り血を浴び続け、戦うのを止めようとしない。
彼は生の最後、ほんの僅かであっても心を通わせることが出来た市に殺されることを望んだのだろう。勿論、自分の最高の剣術をもって彼と戦った上で…無茶苦茶格好良いじゃん。
どんな作品であれ、一作目の出来は良いものが多いけど、これはその中でも特筆ものだ。
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