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[コメント] きけ、わだつみの声 Last Friends(1995/日)

正直、こんな映画で「きけ」と言われても困る。わだつみの声を蔑ろにしている張本人は誰だ!
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 鑑賞中、作品そのものの雰囲気に物凄く違和感を感じた。何かと思ったら、その視点だった。「こう考えなければ彼らは死ねなかった」「あの時代には戦争反対を訴える者が異端だった」……結局は現代人が50年前を見直して得られた解釈でしかなく、所詮は「現代」からわだつみ達を「見下ろして」いるだけであった。製作者側が作品そのものに興味を持ってもらえること(つまりは客寄せ)を意図として、当時のトレンディー俳優をいくら出演させようがこちらとしては構わない。しかし肝心の映画は客観視でしかなく、青春時代を散らした若者達と一緒に這いつくばろうとする気が微塵も感じられないのだ。

 おまけにこの映画、命の大切さ云々を訴えようとしているつもりなのか、特攻にせよ何にせよやたらと「死」が劇的に描かれ過ぎている。例えば織田が敵戦車に爆弾持ってトライとか、風間の特攻とか、仲村が好きな慰安婦と一緒にバイクに乗って死ぬとか、戦死するにしても全部見せ場になっているわけだが、自分にとってこれらは危険思想とイコールである。

 「青春を戦争で奪われた者達の死は何て悲しんだろう!」とこの映画は言いたいわけだが、そんなのは嘘も大嘘だ。戦争による死がそんなに美しいはずがない。目を向けるべきなのは、何の見せ場も無く死んでいったその他大勢の兵士の方である。戦いたくてもろくに戦えず、もはや全身が狂気に満ちた状態で敵陣に突撃し、あえなく玉砕して果てた奴等の“犬死に”を見るべきだ。それがどうだ、この映画は綺麗過ぎる。つまり、風間の特攻機は敵艦に到達出来ないで墜落して無駄死に、織田の爆弾が誤爆して他も巻き添え、という風にやって初めて戦争の無意味さが分かるというものだ。

 自分も戦争は嫌だ。しかしこんな薄っぺらい反戦メッセージに同調は出来ない。どうせならもっと凄い球を放り投げて、観ているこちらの魂を揺さぶって欲しい。まずは岡本喜八の『肉弾』か『激動の昭和史 沖縄決戦』を観るがいい。文句があるならそれからで。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)HILO[*] sawa:38[*] みか[*]

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