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[コメント] スケアクロウ(1973/米)

混沌としてきた時代の中でゴミのような2人の希望が儚く切ない絶妙なEXCELLENTムービー
junojuna

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ゴミたちの希望の物語である。この作劇術はチャップリンの『モダン・タイムス』然り、シュレシンジャーの『真夜中のカーボーイ』然り、ある種のステレオタイプ化ではあるのだが、そこで描かれる希望が儚くも希望であり続ける限り、観る者の心を捉えて離さない強烈なポエジーを生み出す仕掛けとなる。これは人生と不可分にある人間の弱さ、儚さに裏打ちされた本質的な哀しみが想起するロマンなのだ。この映画で注目したいのはジーン・ハックマン演ずるマックスが見つめる彼の道連れアル・パチーノ演ずるライオンへの眼差しだ。彼らは自分たちが認めたくなくともゴミである意識に取り憑かれている。刑期を終えたばかりのマックス、長い船乗り生活から足を洗ったばかりのライオンは、いずれもくたびれた人生からの脱出を、希望に満ちた理想を描いて旅立とうとする底辺を生きる人物像である。旅の途中で、喧嘩っ早いマックスは始終いざこざを呼び起こし、いつも道化を演じているライオンは暴力にさらされる羽目となる。恐らく彼らはその気質ゆえにそれまでの人生においても失敗を繰り返してきたのだろう。マックスはピッツバーグで洗車業を開業すること、ライオンはデトロイトに置き去りにした妻と子どもと平和な家庭生活を新たに始めることを目的としているが、彼らの真の目的は、どうしようもなく自分に染み付いている惨めな気質からの脱出なのだ。ゴミのような人生からの脱出、それは自分の性根から生まれ変わること。この対照的な性格を持った2人の旅の道行は、さまざまな出来事を通して、そうした自分の半生を振り返る契機となりはじめる。その過程でガサツで乱暴なマックスがピュアなライオンの孤独を見つめる眼差しには、切ない心情が神々しくも宿るのだ。何よりジーン・ハックマンのガサツさがいい。その粗雑な男に宿る優しさに無常の世界が立ち現れる。結末はライオンが発狂し、彼の希望は潰えたかのように見えるが、この映画の希望は友情によって復権する人間性を指し示して達成している。この映画はどこまでいっても弱者を眼差す弱者の視線の映画。そこにスーパーヒーローはいないが、スーパーヒーローが見過ごしがちな世界の救済が、そこにある。

(評価:★5)

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