[コメント] グリード(1925/米)
境遇が流転しようとも夫ギブソン・ゴーランドの巨大な鼻は顔の中心で我を主張し続け、虚ろだった妻ザス・ピッツの目はやがて充積した貪欲に目玉がはち切れるほど見開かれ、童顔の友人ジーン・ハーシュルトの広い額と頬はついに乱れ髪と髭におおわれる。
状況や心理を強調するための表情の誇張はサイレント映画の常套手段だ。ところが、この繊細な“心の物語”は、そんな「ありきたり」を周到に回避している。状況の示唆は丁寧に整理されたカットの光りと影とアングルの積み重ねに託され、心理は表情の誇張ではなく顔つきの変遷に委ねられる。
前半の不穏と暗澹から、ついに状況がオーバーヒートする終盤の灼熱へと、執拗、かつじっくりと写し撮られる「顔」が“心”のありようを語り続ける、まさに「顔」のアクション映画だ。そこが、他のサイレント映画と一線を画し本作が“心”を揺さぶるゆえんだろう。
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