[コメント] 天井桟敷の人々(1945/仏)
映画を見終った人むけのレビューです。
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おぼっちゃまとして結構世間知らずで育ってきたバチストと、世間の何もかもを知ってしまっているギャランス。何もかも知ってしまっているから、今まできっとさんざんな目に遭ってきた(に違いない)からこそ、二人は一緒になれない、そう考えてしまう彼女。常に最悪の事態を考えて、「最善を尽くす」よりも「まだましなものを選ぶ」女になっちゃったんだろうね。幸せを求めるにはあまりに消極的な彼女。もうまともに幸せなんて信じられなくなってしまったのかもしれない。
もじもじして(紳士的に)逃げ出す彼に比べて「恋なんて簡単よ」と言ってしまった彼女。ああこんなところにも育ちの違いが。でも経験豊富なそんな女が世間知らずの少年みたいな男に惚れられて、自分もうぶな少女みたいに変わっていってしまう。これは危険だ、賭だ、男が駄目ならおしまいだ。そうでなくたって不幸を選んでしまう女だ。それでもなんとか自分を変えようと頑張る。健気じゃあないですか。
そんな二の足踏みまくっている彼女にとって、あの最後の対決は自分の今までの人生に対する精一杯の抵抗だったんだろうねえ。
「いつだって、どんな時だって一緒だったのよ」
このセリフを言うときのあまりの弱々しさ。振り返るな、振り返るんじゃないよ、バチスト!たったこれだけの動作が、彼女の勇気を破壊した。不安でいっぱいの時は、目線ひとつだって、どんなに小さな動作だって見逃さないよ。
そしてラスト、大きな世間のうねりに流されて、別れていく二人。バチストはその後どうなったか知らんけど、彼女には、ギャランスには、私の想像できる限りの幸せな人生をあげたい。「私は真剣に恋をした。簡単ではない恋をした」という思い出も一緒に。
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