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[コメント] チャップリンの殺人狂時代(1947/米)

メッセージを訴える知的な作業は確かだがその頑なな印象が滋味を抽出するのに届かなかったSO-SO作品
junojuna

 老年にさしかかったチャップリンが一時代の証言者としての気負いを見せる結果となった作品である。制作にあたっては様々な困難(大戦を経た後のフィルム不足、共産主義者のレッテルなど)があったとのことだが、封切後もその難を逃れることなく散々な結果(低迷した興行成績)となったいわくつきの作品としても有名である。チャップリンの映画にはチャップリン自身の身辺に由来する精神状況が影響する作品群というものがある。本作と同様の雑念が垣間見えて印象が頑なな作品として、1928年、映画界にトーキー旋風が吹き荒れた翌年に製作された『サーカス』がその例として思い当たる。『サーカス』ではそれまでサイレント映画という表現形態の中で一時代を築いてきた自身のキャリアを脅かされる外部環境の変化を受けての動揺が少なからず見られ、本作では、第二次大戦の最中に、反共団体から共産主義者としての糾弾を受けて、世論的にもバッシングの対象となったことなどの反動形成的な頑迷さが伺えて、シリアスな作風に一層の暗い影を落としている。物語は逆説的なヒューマニズム宣言であるかに見えるが、これまで唯一無二のファンタジーを醸成することを可能としてきたチャップリンの余裕はそこになく、ある種自虐的なドラマの帰結はその論理思考の頑固な作劇と相俟って晦渋に満ちた余韻が波立つ。チャップリンは本作をして「自身の最高傑作」と評価していたようだが、やはり晩年の焦燥がそう言わせたのではないだろうかと疑念がよぎる。

(評価:★3)

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