[コメント] 簪(1941/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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例えば『按摩と女』や『有りがたうさん』にしてもそうでしたが、この監督は奥から手前だとか手前から奥だとか、奥行きを使ったカメラワークが特徴なのでしょうか?道を面白く撮る人だなぁと思えば、温泉宿場の部屋を大胆に横断するカメラにも度肝を抜かれる。長回しって訳じゃないんだけど、とにかくカメラワークは前衛的この上ない!また会話のテンポが絶妙で、非常にユーモラス。思わず笑ってしまうシーンが数多くあります("思わず"というところが重要)。巧いんだ、本当に。
そして滞在客のキャラも各々立っており、無駄が全くない。前半で階下の団体客に対し「煩い」「賑やか」「景気がいい」「派手」など、それぞれがそれぞれの解釈で表現する、それだけですでにキャラがある程度分かってしまうという凄さ。またこの会話シーンはユーモアもありリズミカルで、あっという間に自分も温泉宿に溶け込んでしまう。特に先生(斎藤達雄)のキャラはとびきり良い。博識だけど神経質で、だけどどことなく滑稽で愛嬌がある。納村(笠智衆)の「お湯の中の簪が情緒的」とか「足に情緒が刺さった」なんていう表現に対し、一本取られたというような悔しさとか驚嘆とかが入り混じった顔をして、でもどことなく嬉しそうで、思い切りパクって「情緒的イリュージョン」とか訳分からん事を言ってみちゃったりする。そんな意味が分からんけど、どことなくインテリで響きが良いみたいな先生の言葉と、その言葉を借りてまくし立てる広安(日守新一)にド直球で「何が言いたいかサッパリ分からん」と切り捨てる納村。この関係性の絶妙な事と言ったら!
また先生と老人のいびき合戦と、襖の奥で応援&実況中継する子供たちにも思わず笑顔がこぼれる。この応援&実況中継が色んなシーンで効果的に使われています。リハビリする納村を応援していたかと思うと、応援の対象が恵美(田中絹代)に代わり、そして按摩にまで雪崩れ込むというあの展開も素晴らしく面白い。これがまた手に汗握る展開で、無駄にスリリング。でもやっぱり思わず笑ってしまう。もう本当にコメディセンスは抜群だと思います。本当に憎らしいぐらい巧い。
でもラストはしんみりと素敵な余韻を残して終わる。なんとも情緒豊かな作品です。
それから当たり前だけど、笠智衆と田中絹代が若い!!!なのにね、声は二人ともおじいさんとおばあさん(要は若い頃から全然変わらん)なんだ。こんなところでも思わず笑ってしまったよ。
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09.01.16記(09.01.13DVD鑑賞)
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