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[コメント] ゼロの焦点(1961/日)

戦後日本の勘違い
poipop

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







見どころは鵜原憲一の内縁の妻、田沼久子。「これ以上生きていたって仕方ないじゃない」と言って、世の中、人生に対してまったく期待していない。 ただし、ニヒリストということではなく、目に見える距離に好きな人がいてくれて、楽しい時間を過ごせればいいということだ。「元々、寂しがりやであんまりしゃべらん人で、そういう所がアタイとっても気に入ってたんだ。」ごくシンプルな話だ。

遠くから見る風景は霞んでみえる。 主人公の久我美子(=東京)から見える田沼久子(=北陸)がまさにそれだ。なんで亭主はこんな女と別れられないんだ。日の当たらない場所に棲む、暗い過去をもった、さえない女、そんな人物像が浮かんでくる。 でも、久我の主人は結局、別れられなかった。

陽のあたる東京から見ると寒さと惰性の塊にしか見えない裏日本の生活にも、リアリティのある楽しい、強度を持った暖かい時間が流れていたことに、久我は気づかされることになる。 接してわかる「田沼久子の達観的の日常(=豊穣なる裏日本)」。久子の存在を通して、戦後日本の捨ててきたものを、清張は意地で描いている。

本作は清張映画としては、ドラマティックな「砂の器」、泥臭い「張込み」などど比較してあまり評判は良くないが、原作の「意図には」比較的忠実な演出が施されている気がする。ヒールで漁村をかけずり回る場違いな美子ちゃん。高千穂ひづる、有馬稲子の海千山千を演じるのに最適なキャスティング。無駄に多い寒村シーン。期待通りの西村晃、加藤嘉のお二人。断崖、橋の上のひかえめかつ唐突なアクション。序盤は冗長だが、後半は皆の過去がこぼれおちてきて、「仕方ないよね」みたいなやるせない空気が流れる、飢餓海峡的な展開もあり、かなり楽しめます。

ミステリとして観ずに、社会派群像劇風にとらえて、日本もローカリティを真剣に考えるべき今(おおげさか・・)観ると、とても新鮮です。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ジェリー[*] ナム太郎[*] ぽんしゅう[*]

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