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[コメント] 孤独な場所で(1950/米)

夜間シーンの撮影が圧倒的にすばらしいのだが、「ハンフリー・ボガートが脚本家」という絶妙な加減で説得力を欠いた設定自体がまず面白い。いやあ、それにしてもこのボガートは本当に恐ろしい。ロバート・ミッチャム並みに恐ろしい。
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**ネタバレ注意**
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かなりいびつな映画ではないかと思う。冒頭から濃厚なフィルム・ノワールの雰囲気を湛え、グロリア・グレアムも当初はファム・ファタルと呼ぶにふさわしいキャラクタを演じているように見えるのだが、物語が進むにつれもっぱらボガートの異常性が膨れ上がっていき、グレアムはむしろ健気でか弱い女性であったことが明らかになってゆく。つまり狭義のフィルム・ノワールではまったくないのだが、犯罪を絡めた単なるメロドラマと云い切ってしまうにはボガートのキャラクタがあまりに過剰であり、しかし、あるいはしかも、彼は確かに「異常」ではあるかもしれないが「犯罪者」でもなんでもないのだ(殴打事件は起こしてるけど)。

要するに、脚本のバランスはよくないのかもしれない。少なくとも教科書的な端正さではない。だが、それにもかかわらずこの映画がとてつもなく魅力的なのは、やはり演出家の仕事のためだ。脚本がミステリに対してほとんど関心を向けないこともボガートとグレアムの関係に焦点を当てる演出にとってはむしろ好都合となり、あまりにいいかげんな事件の解決の仕方もふたりの別れの描写の鮮烈さに貢献する。その直前に当たるふたりの「対決」シーンも、確かに彼らの演技自体にも圧倒されはするが、その演出の密度は声を失ってしまうほどに凄まじい。いちばん驚いたのは次のワンショット。ふたりが云い合うさまを収めたフィックス・バストショットで、グレアムが「もう耐えられない!」と泣き伏すようにして右にフレームアウト、その瞬間電話がかかってきて、それに出るためにボガートが左にフレームアウト、またその瞬間グレアムが起き上がってフレームイン。「瞬間」という言葉を使ったように、もうものすごい速度感。電話の音響も驚異的。

また、不可解なポジションからのショットがいくつか見られ(マッサージを受けるグレアムの顔を仰いで撮ったショットなど)、この居心地の悪さもニューロティックな恐怖の醸成に寄与しているように思われる。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)寒山拾得[*] Orpheus

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