[コメント] 山の郵便配達(1999/中国)
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息子24歳。30の時の子だとしても、父はまだ54である。盲目の老女が「私は年寄りだがあんたは若い。まだ引退する歳じゃなかろうに」と言うのは正しい。人生の刻みこまれたいい表情をした親父である。単に顔が皺くちゃの俳優を起用しただけかもしれないが。
山里と都市、山里と山里を精神的に結びつけるこの郵便制度そのものを、社会を支える一種のインフラストラクチュアと呼んでいいのではないか。全体の意向で少数の個別的事情を切り捨てることのない(切り捨てないことのできる、か)血の通ったインフラストラクチュアである。
だが制度とかインフラというもの自体に、「効率」や「進歩」の概念が含まれているだろう。一個の誠実な人格に支えられたこの制度も、やがてもっと近代的で画一的な「システム」に取って代わられるのだろう。そしてそれは、彼の息子の時代(つまり「今」だ)に実際に起きたことなのだ。
個人的には、息子の独白で幕を開けながら、途中で父の心情が仮託されたりと、語り口の視点が一貫してない点に違和感を覚えた。また、息子の成長を見守る父の心情と、古き時代への郷愁を重ね合わせる構成(だと思うんだが)もどうかと思った。本質的には別物のはずだから。
ただ、紙飛行機を飛ばすシーン、観ている私の中からも、大切ななにかが抜き取られていくような感じがして、胸にきゅーーんとした痛みを覚えた。それでもなお見続けていると、やがてその離れていくなにかを、温かく見送ってやるような心情に変っていったのが不思議だった。
総じていうと、名作然とした標準作、ってところ。景色が本当にきれいなので+5点。
80/100(03/01/25見)
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