[コメント] イチかバチか(1963/日)
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ハナが伴淳をさらってゆく辺りまでは完璧なのだ。特に素晴らしいのは宴席におけるハナの馬鹿踊り。原作のよさだろう、細部の理屈が真っ当で、地方の企業誘致とはこのようなものだというリアルが地方出身者の私を暗澹とさせたりする。
だがここから、ハナの正しさが少しずつ浮き彫りになってゆく行程は退屈。それは気持ちの良い喜劇の常道であるが、常道で処理すべき話なのか。こんなバカふたりに、町を任せてよいものだろうか。クライマックスは時折映画に現れる直接民主制の夢が描写されるが、工場か競輪場かという二択とはいかにも狭い選択肢である。
川島が撮った商業映画とは、これを是とする時代の産物だった。社長や市長は幾分かはバカであり、成果があがれば市民は許したのだった。いまは違う。このようなイチかバチかの成功などあり得ないから。翻っていま川島が生きていたら、さて企業のアジア進出を撮ることになるのだろうか。
『女は二度生まれる』の若尾にせよ、『青べか物語』の森繁にせよ、川島の登場人物は最後に、不意に消えてしまうような、不思議な退場をすることがある。本作の高島忠夫は途中予告があったから少し違うが、似ている。辞表を完成模型に叩き付けるラストは意味深であり、穿った見方をすれば、川島の商業映画への決別だったと思われる。すると本作が川島の最後の作品であるのは、必然であったことになる。
重厚なモノクロ撮影は逢沢譲の世界か。冒頭の豪雨が上がる描写など優れている。
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