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[コメント] 妻は告白する(1961/日)

シネスコの画面左に男の顔。来たぜ!レンズを3つ付けた16ミリのシネカメラ(ボレックスみたいな)を回し始める。裁判所の前。画面右奥にもカメラを回す男がいるディープフォーカス。
ゑぎ

 このファーストカットは完全なパンフォーカスのショットではないと思ったが、法廷シーンでも、完全なパンフォーカスと画面奥だけピントが少し甘いショットを使い分けているように思った。いずれにしても、沢山ライトを焚いて絞りを絞って、焦点深度を深めたショットだらけだ。手前に傍聴席の川口浩、その奥に被告席の若尾文子、さらに奥に検事席の高松英郎。手前に高松の背中があり、証言台の川口、被告席の若尾、一番奥の弁護士席に根上淳を並べるショット。速記者がタイプする手が左手前にあり、右奥に証言者といったショット。あるいは、川口とその婚約者馬渕晴子が料理屋の個室(座敷)で会話するシーンも手前と奥の人物をパンフォーカスで見せる。

 また、ディープフォーカスの演出以上に特徴的なのが、180度のカメラ位置転換、いわゆるドンデンの頻出だろう。これは法廷シーンもそうだが、もっと狭い空間、小沢栄太郎と若尾の夫婦の部屋でのシーンだとか、小沢が友人の夏木章(登山具の店をやっていると云ったと思う)と銀座のバーで飲むシーンなんかが顕著だ。特に凄いのが、若尾が40度の熱が出たと云い、川口が看病のために訪れた寝間のシーンなんて、全てのカット繋ぎがドンデンだったのではないかと思われるぐらいだし、審理が終わってから判決日まで、若尾と川口が2人で過ごす描写(ボートの中での水着姿、浜辺で横臥し回転する2人、観覧車の中での虚無の表情)の最後に繋がれるホテルの部屋での会話場面も、ドンデンでバンバン繋いでいる。

 カメラを180度方向転換をするとは、どういうことだろう。それは、その都度、照明を作り直さなくてはいけないということだ(勿論、時系列に撮影するなんてことはなく、一方向からのショットをため撮りするだろうが)。さらに、狭い部屋みたいな密閉空間に見えるようなかたちで、これやるということは、壁をどうにかする必要があるだろう。それには、手間暇(つまりお金)がかかるだろう。では、なぜこんなに手間をかけてまでこれをやるのか。そこには、どうしても映したい構図や表情があるからだろう。私は、この増村の演出は贅沢だと思う。今ではもう見ることのできない古い映画の贅沢さがこゝにあると云えるだろう。しかし、昨今のドキュメンタリータッチと云う名にかこつけた、切り返しも(照明の作り直しも)全くしない、ハンディカメラ一本やりの画面と比べると、尊いのは増村の画面だと思う。勿論、題材との整合性や、好みの問題もあるだろうが。

 尚、若尾文子の出番だと、終盤の雨に濡れそぼった着物姿、そのヘアメイクにはゾクゾクした。いやそれ以上に、法廷で事件の状況を検証するために、血痕の付着した事件時の服(証拠番号の札がついている)を着て、ザイル(ロープ)を上半身に巻き付けた絵づらが最高でした。あと、本作の馬渕晴子の冷え冷えとした感じもとてもいい。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・判事は大山健二。証人には遺体発見者の此木透、警察官の酒井三郎、登山家の小山内淳らがいる。

・小沢と若尾の家の女中で村田扶実子。イヤらしい感じがクサいが上手い。

・新聞記者で仲村隆武江義雄ら。

・川口の上司に谷謙一。同僚に飛田喜佐夫森矢雄二。川口の会社シーンにはバルサンやグロンサンの広告が見える。中外製薬だ。バルサンのポスターに映っているのは丹阿弥谷津子か?

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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