[コメント] アクシデンタル・スパイ(2001/香港)
ジャッキーが監督を人に任せた作品は、おおむねジャッキー監督作よりデキが悪い(『ポリスストーリー3』など稀有な例外もありますが)。監督としての力量の差もあるだろうけど、問題は雇われ監督たちが主人公をただ「ジャッキー」という概念としてしか描いていないことにあると思う。そのためにジャッキー演じる主人公への感情移入が困難になっていると思うのだ。「ほら、毎度おなじみのジャッキーですよ」というわけだ。それは、どんな映画でもおなじみのルンペンだったチャップリン、おなじみの好青年だったロイド、いつも仏頂面だったキートンたちの域にジャッキーが達しているという証しでもあるのだけど、これをあんまりやっていると結果的に1本1本の映画の力を弱めてしまうという気がしてならない。
功夫卒業後の近代ジャッキー映画に限っても、たとえば『プロジェクトA』の水上警察隊員や『香港国際警察』の刑事、『ミラクル/奇蹟』の青年なんかはそれぞれがまったくの別人だった。それは、映画の中で彼らが闘い、傷つき、怒り、笑い、それぞれの物語を必死で生きていたからです。だからオレは彼らの冒険にのめりこんだし、本気で応援したのです。
オレが怖れているのは、ジャッキー自身が「どんな映画でも、とにかくジャッキーしてればいいんだろ」と考えてはいないかということです。いや、たとえそうでも、それは勿論凄いことではあるのです。いったい他に誰が「ジャッキー」できるというのか。誰にもできません。しかしろくにアクションさせてもらえないバイト感覚のハリウッド作品ならともかく、ジャッキーが身を削り命を張って傷だらけになりながら作る香港作品だけは、1本1本本当に大切に作ってほしいのです。オレは心配なのです。彼ほど大きな代償(ズバリ命のことですが)を払って映画を作っている人は、世界中探してもどこにもいません。だからこそ彼にはその代償に値する、素晴らしい映画をモノにしてほしい。オレもそういう作品を観たい。そして雇われ監督たちにもお願いしたい、あなたがたが撮影している背の低いおっさんは、かけがえのない人なんだ。人類の宝なんだ。ワンカットたりともいいかげんに撮るな。永久に語り草になるような映画を、必死で作れ!
『アクシデンタル・スパイ』はつまらない映画ではないし、むしろ面白かったのだけど、ジャッキーの払う代償に見合った映画では決してありません。彼の時間が勿体ない。オレはそう思います。
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