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[コメント] シッピング・ニュース(2001/米)

ラッセ・ハルストレム監督の優しさ。この映画に揺られて眠りにつく。そして家族を思う。家族という幻想。それは見えないもの。幻想だ。
chokobo

マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』からのおつき合いで、『ギルバート・グレイプ』、『サイダー・ハウス・ルール』、『ショコラ』そしてこの映画と、いずれもこの監督の優しさがにじみ出ていて見事だ。

前作『ショコラ』まではロマンス、そして状況設定に甘酸っぱいものがあった。ところが本作では一気に厳しさが面に出た。

ベルイマンでありウッディ・アレンであり、この海と家、そして室内での男女の描写、見事だ。空間の中に感情表現が漂っている。空気の中に愛情が満ちあふれている。素晴らしい映画だ。あの海の色、空の色、家の色、この演出には驚かされる。

ジュディ・デンチ。007のミスターM。『ショコラ』の見捨てられた祖母役、そしてこの映画。毅然とそして世の中とずれている、あの演技。これも見事だ。遺骨をトイレに流す。彼女がそこでパンツを脱ぐ。画面の下でジュディ・デンチがパンツを脱いでいる。そしてその外に見る海の風景、思い出される家族、兄、このシーンだけでこの映画は全てを物語っていたとは。

アメリカ映画でこのような作品に接することができるとは、大作主義に見失われてしまいそうな作品だが、アメリカはこういう映画も作ることができる。奥が深い。『ギルバート・グレイプ』も『ショコラ』も、世間が目をそむけているような人、家族、そこに優しいスポットを当てて我々に教えてくれる。

家族愛などというものはきれい事だ。そこに隠された真実に立ち向かうこと。日本人ではこのような映画は今撮れない。日本人は家族を直視していないからだ。敢えて申すなら北野武。唯一彼だけが今の日本で目をそむけているものに着眼しようとしている。ただ、決して優しくはない。

(評価:★4)

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