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[コメント] 鬼が来た!(2000/中国)

このような映画が生み出され、我々の前に圧倒的な迫力を持って提示されること自体が、日本という国が「西側」という陣営に属しつつ、「戦後」という虚構の中で自分自身を律してきた世界が最早崩壊しているという事実を思い知らせるに充分なものである。意味が分からないって?それは→
むらってぃ大使

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







東西対立という、今となっては歴史の一部となりつつある世界の構図の中に身を置き続けてきた日本は、その後の世界政治の力学が相当の速さとインパクトで変化しているにもかかわらず、その中で自分自身をどの位置に置けばよいのか見出せずにここまできてしまったのではないか。その結果が、最早昨今語り尽くされた感のある「外交の不在」ということであろう。

最近の教科書がどういう歴史を教えているのか承知していないが、アジアという枠組みの中で、日本にとって韓国、北朝鮮、中国という3つの国が、距離的にも歴史的にも極めて近い距離にある、特別な隣人であるということはひとまず事実として了解されているだろう。

これらの国については、ここ100年余りの日本との力関係の複雑な変遷という歴史的経緯から言って、極めて特異な位置にある特別な国であると言わなければならない。だからこそ、教科書問題、歴史認識問題といったことが「問題」として取り上げられているのだ。

そのような現状認識の元でこの映画を鑑賞したが、観ていてすぐに頭をよぎったのは『ノー・マンズ・ランド』である。ほとんど同じ時期に、ほとんど同じプロットの映画を偶然観てしまうことはあるが、この二つの作品は戦争下、特異な状況が生み出され、悲劇的な結末に向かうというプロットそのものは全く一緒であると言っていい。史実に基づいて作られているという点も同じだ。個人的には仕事の関係でボスニアに行くこともあるので、自分自身との距離感という面でも同じくらいの位置にある。

ただ、この作品を特徴付けているのは、当然のことながら旧日本軍について語っているという点であり、我々が日本人である限りにおいて、圧倒的な存在感を持っている。さらには、日本人が描く戦争映画であれば、陸軍と海軍の関係は全く違っただろうし、日本人が村民を虐殺するシーンがあそこまで描かれただろうか。

この場で戦争の史実について事細かに追っていくつもりはない。

この映画で印象的なのは、むしろ個性的な役者達の迫力であって、戦争に対するメッセージについては私が言いたいことは『ノー・マンズ・ランド』のレビューに書いている以上のことは今のところは何も無い。既に何人かの方が触れられているが、澤田謙也に尽きる。男が惚れる男を演じきっている。香川照之チャン・ウェンも素晴らしい。役者が作品を作ったといった趣。

(2002.5.19)

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)sawa:38[*] ニュー人生ゲーム[*]

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