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[コメント] WXIII 機動警察パトレイバー(2002/日)

もはやナニを目指したのか。レビューは理屈っぽい「私的原作アリ映画論」。
tkcrows

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







よく原作がある作品の映画化に対しての批評を読む機会がある。多くは原作の素晴らしさが映像化されたことによってぶち壊し、みたいな論評だ。実は私もそういう批評を結構この場でしてきた。原作への思い入れが衝動となって返ってきちゃうわけだ。

では、その批評は正しいのだろうか。難しい問題だが、たぶんそれは否であろう。

作品、特に小説は、一度世に出てしまうと作者の手を離れ、読者のものになってしまう。読者は各々の世界を構築し、脳内だけで世界は展開されていく。そこで理想郷をつくるもよし、退廃的な社会をつくるのも自由。そこには作家自身も立ち入れない場なのだ。だから、たまに自身が出来に納得できず加筆、修正を施し改訂版を出すことがあるが、その世界が読者の既につくられた世界と離れたしまった場合、作家自身が罵倒の対象となってしまうようなおかしな事態になったりする。 原作ツキの映画というものは「監督という一読者の世界観を一つの解釈として具現化した」ものであり、最初からズレが生じているのは当然なのだ。観客は製作側の解釈というプリズムを通して自分の思い描く原作を感じようとし、その偏光だらけの作品に対しての批評をするしかない。自分がAであると信じてきたことを他者がBと言う。それに対して「あんたはアウト(セーフ)」と言っているようなものなのだ。

(余談だが私が以前から「最強のエンタメとは小説である」と信じているのは、この個人の創造する世界観は誰も否定しようがないほどの完璧なものだという思いがあるからだ。想像の登場人物は演技等一切しないし、台詞を噛むこともしない。ましてやNGなどありえない一発撮りで、舞台のセットの規模は果てしない。予算は無尽蔵にあるのでいくらでも豪華なものがつくれるわけだ。)

その点、マンガの場合は視覚に訴えてくる分、読者の世界観は共有しやすい。キャラクター造型もそのままであるし、思考せずとも背景画が想像の補完をしてくれる。人間、ラクなほうへ流れるのは自然なことであり、マンガは日本では誰でも読むのが普通になった。小説が100万部売れたら出版界騒然の事件になるが、人気マンガが100万部売れたって今では話題にもなりにくい。人気小説家と人気マンガ家、どっちが儲かるかと言われたら較べようもなくマンガ家だ。未来がある若者よ、なるんだったらマンガ家がいいぞ。あ・・・、話がズレた。では、マンガという原作のあるものの映像化はどうだろう。・・・ということでやっと本題。

かつて、このシリーズを担当した押井監督が巧いことやったなと思うのは一言で言うと「換骨奪胎」。これは『うる星やつら』でもそうだった。つまり、キャラクターだけ借りてきて独自の世界観を現出させたわけだ。おなじみのキャラクターが必ず活躍する、という最低限のお約束を守った上で、視覚的安心感を観客に与えている分、世界を自在につくりあげる余裕ができる。これはたぶんアニメぐらいしか応用の利かないもので、最初から「演技をしている」役者を配置した実写では失敗することが多いだろう。押井監督は「こんな作品はパトレイバーじゃない」と言わせないほどの、我々の想像を上回る構成を提出して評価を得てきた人なのだ。たぶん。

この作品はその押井作法を推し進めてきたかのように、見事に彼のやりかたを踏襲している。原作でも緊張感のある展開を見せた「廃棄物13号」を人間ドラマをメインにし、しかもいつものキャラクターを廃するという大胆不敵。正直、この発想には感心させられた。が、それが成功したかと聞かれれば首を傾げるしかない。ドラマに重視しすぎたために、話題のメインになるはずの怪獣に視点が向いてないのだ。もはや怪獣はおまけでしかない。それどころか私は「怪獣さえ出なければ」なんてことも思ってしまったのだ。それくらいドラマ部分とアクション部分の違和感が強烈だった。この時点でパトレイバーでも廃棄物13号でもない別のものができあがった。どうせメインキャラクターを出さないという大胆不敵さがあるなら、本当に怪獣を出さずに話をまとめられなかったか、と考えてしまうのだ。前作・前々作が傑作になりえたのはそのギリギリの部分をしっかり見極め、観客に提出できたことに他ならないのだ。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)水那岐[*]

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