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[コメント] ドニー・ダーコ(2001/米)

想像してごらん、自分がいない世界を。 
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







いろいろな解釈ができるけど、一応作品で起きていたことがすべて実際の出来事であった、タイムスリップものとして私は観ました。

多くの人にとって「世界」とは、「自分が意識している世界(=以下《世界》とする)」と同じものをさすだろう。自意識の肥大したドニーという少年(というか、そういう年頃)にとって「世界」とは、疑いようもなく自分が認識している《世界》だ。そして頭の良かった彼は《世界》の歪みを彼の論理に基づき、正しい方へ導こうとして「世界」に罰を下したりするのだ。

そんな彼は、ガールフレンドと出会ったことで《世界》と「世界」の差に気付きはじめる。「世界」など自分の意識の産物であるという考えが、最後ガールフレンドの死をなかったことにするために、《世界》は失っても「世界」のあることを信じてタイムスリップに臨むのである。そういう話である。

ちょっと話がそれるが、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「ターミネーター」、はたまた「ドラえもん」などメジャー作品で描かれるのは「タイムトラベル」と言われるように、時間移動をする主体の意志は、見物者の視点を持っている。それができるのは、どの時代にいっても、現在(タイムトラベルをした時の時制)の意識がそのままキープされているからだ。一方「スリップ」のほうは文字通り、「ずれちゃった」という、時間移動者の主体ごと時間が移動してしまうという感じだろう。現在までの記憶は、新しいものの端から順に消えていく。この作品の場合28日前にテープの巻き戻しのように「逆戻り」するわけだ。で、ここで当然出てくる疑問は、「なぜ最初と最後でドニーは別人なのか?」だろう。これは時間と空間の置き換えによるタイムスリップの解釈と考えると辻褄がつく。といってもまあ、思考遊びみたいなもんですが、例えば自宅から駅まで片道30分の距離だとすると、そこを往復(自宅→駅→自宅)するのに1時間かかる。元の空間から別の位置へ移動してまた元に戻るには、必ず時間が移動してしまう。空間の移動距離が短くても数秒、数分とたってしまうし、長ければ長いほど、比例して時間の移動も長くなる。これを(10月2日→10月30日→10月2日)という時間の移動に置き換えた場合、最初の10月2日と、後の10月2日では空間のほうが28日分の時間に相対する空間分移動してしまう、という考え方だ。28日間の移動だから、元のかたちを確認しようもないほど別の世界でもないが、微妙に違ったドニーが住まう空間になってしまったということでどうでしょう…手をうちませんか?…。

ええ、ドニーがウサギに告知される「世界の終わり」とは、《世界》でもあるし、「世界」でもある。最初の10月2日のあった「世界」はタイムスリップによって逆戻しされることで実際に消滅し、かわって別の空間が「世界」となるのだ。もし時間を司る神がいたら、おそらくこのタイムスリップはあらかじめ「お決めになっていた(予定に組み込まれた)」出来事なのだろう。タイムスリップ論を提唱したかつての教諭である老婆が、しきりにポストに投函されるはずの手紙(ドニーからの)を気にしていたり、ドニーが10月2日からウサギの幻想を見るようになるのは、そこから28日後の折り返し地点に向けて、徐々に逆戻しの準備が始まっている兆候で、ドニーと老婆だけが逆戻しのことを知らされたのである。

監督がこの作品に対しいろいろな解釈ができるような曖昧な作り方をしているのは、実はこのタイムスリップがあらかじめ「組み込まれていたもの」とすることで、主人公の主体的な選択という色合が薄まることにあるように思える。タイムスリップを主人公の主体性によるものとするようにテーマを推し進めていくと、ウサギがチラチラ現われるという設定にとっては都合が悪くなったのではなかろうか。そこでなんだかよくわからないように仕上げたのだ。「ウサギの幻想に導かれる」ということこそ、一番描きたかった画で、これははずせなかったと見た。

話は戻って、ラスト、「世界」はまた正向きの方向へ移動しはじめる。観客が作品を見ている間目にしてきた「世界」は、ほぼドニーの言葉で語られていた《世界》だったが、最後にその主体が去った後にも「世界」がありつづけることを垣間見ることができる。私の場合寿命からすれば、具体的に2030年あたりで死ぬだろう。でも確率からいって、私の子供は2050年以降2080年くらいまでは「世界」にいるのだろう。そしてその先は…? そういう不思議をちょっと味わえる。ただし監督がそういうことを意図してたのかどうかはわからない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)Orpheus MM[*] わっこ[*]

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